「はろー、お見舞いに来たよ」
ひょこり、と病室の扉を開け、友人が顔を覗かせた。
01
「やほ、。大学はどう?」
「うーん、そろそろ就活就活って騒ぎ始めてるね…」
「げー、学校戻りたくないー」
「あ、サークルは新入生何人か入ったよ」
「ほんと?」
他愛も無い話をいくつかしていると、彼女はふと黙り込んだ。
「ねぇ…大丈夫?」
「大丈夫大丈夫、ピンピンしてるよ!」
「そっか」
言葉を二度繰り返すのは、嘘を吐いている証拠。
いつだったか聞いたことのあるフレーズが頭をよぎる。
「…ほら、頼まれてたマンガ。今日発売だったんだ」
「ありがと!へっへっへ、私の生きる糧!!」
「好きだねぇ…」
「あったり前!」
だって、外に出られないんだもの。
みんなみたいに、学校帰りとかどこかに寄ってお喋りする…なんてこと、出来ないし。
そんな言葉は、そっと胸の中にしまっておこう。
数ヶ月前までは、私もそういった「学校帰りにどこかに寄ってお喋りする」部類だったのに。
突然、本当に突然…生活は一変した。
原因不明の病。
完治することは難しく、いつ容体が悪化するかもわからない。
体調を崩して病院へ行った私に告げられたのは、それだけだった。
そりゃあ、もちろん私だって泣き叫びたかったし。
なんで私が、なんて悲劇のヒロインみたいなことも言いたかった。
だけど。
両親の、妹の、涙を見て…泣けなくなった。
心配かけたくない。
苦しませたくない。
だから、笑う。
(幸村くんも、そう思ったの、かな)
彼女に買ってきてもらったマンガの、登場人物を思い浮かべる。
私と同じような境遇で、笑顔を絶やさなかったその人物を。
目標にしているのは彼でもある。少しでも、元気を分けてあげられたらと。
おかげで、病棟内でも話題になりつつあるんだけど。"能天気な患者"だとか。
「ほら、ちゃん!消灯消灯!」
「わ、坂本さん待って!あと3ページ!」
「しょうがないわね…」
担当の看護士さんである坂本さんは、私にちょっと甘い。
「じゃあこの階の見回り済ませてくるから、それまでにね」
「へへー、ありがと坂本さん!」
坂本さんが出て行って、私は再びマンガの世界へ。
(うーん、全国大会も終わっちゃうな…)
紙面上で繰り広げられるのは、青学対立海の決勝戦。
この試合が、終わるまでには…退院したい。
「…けど、無理だろうなぁ」
…仕方、ないんだし。
無意味なこと考える前に、消灯準備しなきゃ。
そうこうしている間に、坂本さんが帰ってくる。
「もういい?」
「いいですよー」
「はいはい、それじゃ」
おやすみなさい。
その言葉に、私は目を閉じた。
(願っても願っても、)(叶わぬ願い)