〜♪



どこからともなく、鼻歌が聞こえた。




   03




〜♪

機嫌よさそうな、その音。
私の意識を引っ張り上げたのはこの音か。


カサリ。

それと同時に、本のページをめくる音。


だれかお見舞いに来てくれたのかな。
父さんか母さんが早く着いたのかも。
まあ誰にしろ、このままの状態でいるのはちょっと失礼だ。
それにしても、いったいどれくらい寝ていたんだろう…


目を開ける。
同時に飛び込む、赤色の髪。
「ちょ、」
「おう、はよ」
「え、あ、うん。おはよう。じゃなくて!」
「おーい、が起きたぜぃ」
「人の話を、」
「25分。やはり予想通りだ」
「おはよう。って、もうおはようの時間じゃないけどね」


ぞろぞろと。
扉を開けて入ってくるのは、美形集団。
相部屋じゃなくてよかった(他にベッド見当たらない)と思ったのは当然だ。



せんぱーいっ!」

ぴょーん、と飛びついてきたのは、切原赤也じゃないか!!
「う、わ」
そして見事にバランスを崩す私。
「何をしている赤也!まったく…大丈夫か、
「病室では騒がないようにと言ったはずだぞ、赤也」
皇帝と参謀からダブルのお説教をくらう赤也は…なんていうか、その。

(可愛い…っ!!)

「お、そうそう。おまえさんの友だちから頼まれたんじゃけど」
不思議な方言に振り向くと、そこにいたのはもちろん仁王だ。
「クラスのみんなでまとめたんじゃ。授業のノート」
「おう、俺も国語やったんだぜぃ!仁王は参加してなかったけどな!」
「俺は表紙担当じゃき」

言われて表紙を見れば、全てのノートの名前の欄にでかでかと書いてある私の名前。
(え、これ仁王が書いたの?現代文に古典、英語、歴史…うわぁ、数学まで)
私の脳が導き出した結論。

…どうしよう、3Bも可愛い。

あぁ、まだ夢見てるんだろうか!あのよくある、目を覚ました夢を見たってやつじゃない?
だってこんな可愛くてリアルで美人で可愛い(2回目)子たちが!目の前に!
そうだよ、きっと寝る前にとあんな話したから続き見てるんだよ!!うんきっとそう!!


せんぱい、いつになったら退院出来るんスか?」
「き、切原君!」
無邪気に聞いてくる赤也と、慌てて止めようとする柳生。
それを止めて(どうせ夢の中だし、何言われても…ねぇ?)、赤也に笑顔を向ける。

「いつになるかはわからないんだよねー。ひと月、ふた月…もしかしたらもっとかも」
でも、大丈夫だよ。きっと、大丈夫。だから、心配しないで?

両親に、妹に、言ったように。私はそう続ける。
すると赤也は、泣きそうな顔をして…「はい、」と頷いた。

もちろんそんな顔を見て黙っていられる私でもない。黙っていようとも思わない。

「ふふ…赤也ー、よーしよしいい子いい子」
頭を抱えて、ぐりぐりと撫でてやる。(おぉ、触り心地のいいわかめ)
「ちょっ…先輩やめてくださいよぉー!!」




お願いだから泣かないでよ。つられて、泣いてしまいそうだから。





ぽん、と頭に手が置かれる。
見上げると、それは幸村の手だった。
「え?なに?」
続いて一人、もう一人。
いつの間にか赤也も私の手から抜け出して、満足げな顔で私の頭に手を乗せている。

そして幸村くんが私を見て、言った。



「俺たちは負けない。無敗で、君の帰りを待ってるよ」



「ま、けない?」
「うん、負けない。だから、」

も、負けないで。


みんなが、私を見ている。
自信満々に、「負けない」と言いたげな表情で…


「…ありがとう」

夢だって、なんだっていい。私は、



確かに、彼らから何かを貰ったんだ。





(それは、とても大きな約束)