ピッ、ピッ…
無機質な音が、ゆっくりと私の意識を浮上させた。
09
泣いていた、らしかった。
視界がぼやけて、涙が伝う感覚があった。
(感覚…?)
―… きこえ―?―さん…?
なに?きこえないよ、なんていってるの?
―さん…さん、聞こえる?
私を呼んでいるの?
やめてよ、このふわふわした空間を漂っていたいのに。
さん…さん…
「!」
この声…なんだか、とても悲しそう。
そんなに苦しい声で呼ばないで?
…起きなきゃ。この声を、この人を、泣かせたくない。
引っ張り上げたのは、いったい誰の声だったのか―――
私は知らない。
***
次に意識が戻った時には、視界はもうぼやけてはいなかった。
代わりに目の隅に映ったのは、見慣れた芥子色のジャージ。
(立海の、ジャージ…?)
不思議に思った瞬間、ガタン!という大きな音がした。
「!!」
「さん!」
ガラス窓の向こう。
見慣れた色の正体は、
「みん、な…?」
顔いっぱいに安堵の色を浮かべた、彼らだった。
口々に何かを言っているのに、ガラスに遮られてそれらを全て聞くことは出来ない。
それに彼らも気付いたのか、全員が揃って何かを指差した。
「お前のだぜぃ」
「早くそれ着て仕事頑張ってもらわなきゃ」
ブン太と、幸村くんの声が聞こえた。
その言葉に、指の先を辿っていく。
(あ、)
思ったより近くに、それを見つける。
普通に生きていれば、
あの夢を見なければ、
"こちら側"を選ばなければ、
手にすることはなかったはずのそれ。
(立海の、ジャージ…)
涙が、零れた。
(それは決別の涙か、それとも)