拒絶されはしないだろうか。
不安な気持ちから、足取りは重くなる一方だった。




   13




「仁王、いらっしゃい」

彼女はいつも、とても嬉しそうに笑う。
それは対象が俺でなくても…ましてや人間でなくても、だ。


丸井の作ったケーキが美味しいと笑い

柳生が撮った野良猫の写真を見て、可愛いと笑い


彼女にだって、辛いことはたくさんあるだろうに
見舞いに行けばいつだって、は笑顔で迎えてくれた。



なのに、あの日…
彼女の容態が回復し、みんなで見舞いに行ったあの日、だけは。




『帰って、くれる?』

何かを思い出しているような、そんな苦しそうな表情を見たのは初めてだった。
そして、彼女が泣くのを見るのも…



それに、正直俺は…いや、俺たちはビビっていて。
誰も次の見舞いを言い出さないまま、一週間が過ぎてしまった。
とうとうしびれをきらした幸村が強制的にじゃんけん大会を開催したことで
俺は今ここにいるわけだ。


(…毎日行っとったのに、な)

久々に感じる病院。彼女の病室はあの辺りだっただろうか、と数えながら、
俺は頭の中であれこれ言い訳を考える。



無理させんようにと幸村から止められとって…
(…いや、後が恐ろしいか)

真田がオニのように練習を増やしたんじゃ…
(…口裏が合わせられん男やき、やめとったほうがええな)

じゃんけんで負けたんじゃ…
(言い訳にもならん、事実やしの)


半ばやけくそで、病院の自動ドアをくぐる。
エレベーターを待ちながらも、思い出すのは彼女の涙。


(拒絶、されんじゃろうか)
また泣かれてしまったら、
(俺は、どうしたらええんじゃ…)


鈍い音を立てて、エレベーターの扉が開く。
目的の階に着いたのを確認して、一歩踏み出そうとした時。




「あ、」


微かな声。
それは目の前の、エレベーターを待っていたであろう少女のもの。


「っ、」


その姿は、自分が会いに行こうとしていた彼女。


「…久しぶり、やの…



精一杯、表情筋を総動員。
不自然でない程度に、笑う。

彼女は一瞬、驚いたように目を見開き、




「…いらっしゃい、仁王」


いつもと同じ、笑顔を見せてくれた。











***











「用事があったんじゃなか?」
「んーん、別に」

結局、部屋に戻るというと並んで歩き出す。

「用事もないのにエレベーター待ちしとったんか」
「違うよ」


「テニス部の誰かに、電話をかけようと思ったの」
「変なこと言って泣いたりしてごめんなさい、」
「淋しいから、遊びに来て、って」



足が、止まった。


「…聞かなかったことにして!恥ずかしい!」

数歩先で同じように立ち止まった彼女がそう言うのと、
俺がの手をつかむのはほぼ同時だった。



「…すまん」
「何、が…?」
は、悪くない」

俺たちが、の強さに頼りすぎていただけで
の笑顔に、甘えていただけで
だから、

は、悪くないんじゃ」

もっともっと、強くなるから
辛い時は支えるから

「謝るんじゃなか」





(小さく震えたその肩に)(俺はただ、気付かんふりをした)