3日かかって把握した自分の状況は、
予想以上に面倒なものだった。
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何でもかんでも日記に書く"私"の性格が幸いして、
病室に持ち込まれていたそれを読むことで大体は把握することが出来た。
両親が事故で亡くなったこと
親戚(あの叔父だろう、ということはなんとなくわかった)と暮らすのが嫌で
学校の近くのマンションで一人暮らしを始めたこと
附属高校へ進学したこと(中学生じゃなかったんだ、と私は後から慌てることになる)
それから…テニス部での、日常も。
何かを予感したように、書かなくてもいいようなことまで書いてあるその日記は
ありがたいことに、マネージャー業についても詳しく書いてあった。
買ってきた別のノートに、それらだけピックアップしてまとめる。
各レギュラー陣の癖や怪我の有無、テーピングの仕方まで。
(…みんなにバレないようにしなきゃ、)
私が、みんなの知っている"私"ではないことを。
きっとそれが、私に取れる最善の行動だと信じて。
幸い、今は学校も春休み中。
新学期になればおそらくクラス替えがあるだろう。そうすれば、
私がクラスメイトの名前を覚えていなくても不自然ではなくなる。
"私"のものだった空間を少しずつ埋め尽くしていく感覚に、背中が寒くなった。
確かにここにいて息をしていたはずの、一人の人生を
私は、周りに気付かれないように、こっそりと塗りつぶしているのだ。
カレンダーが示す日付は、
私が完全に"こちら"に来てから2週間が過ぎたことを知らせている。
「〜」
「せんぱーい、こんちわー」
「よ、元気そうだな」
突然開いたドアに、慌てて手元のノートに違うノートを被せて
「…びっくりさせないでよ…」
「悪い悪い!」
何もなかったかのように、足繁く通ってくれる彼らを出迎える。
「今日は何かあった?」
(そっと、塗りつぶす)(どうか、気付かないでいて)