ぽつり、呟いた言葉
彼は思った通り、泣きそうな顔で笑った。




   16




「…手術をね。することにしたの」
「…え?」
「一回退院して、手術のためにまた入院…ってことになると思う」


なんともないような顔で、告げる。


「いつ?」
「県大会の前、くらいに」

答えると、幸村の表情は苦しそうに歪む。
その表情に、私の方が心配になってしまった。





「…ねえ幸村。私ね、ずっと幸村に聞きたかったことがあるんだ」

"ここ"に来るずっとずっと前から、彼に聞きたかったこと。

「なんだい?」
「幸村は…



幸村は、怖くなかったの?手術」




問いかける。
彼は小さく笑って、「怖かったさ、」と呟いた。
「でも、君たちがいてくれたから…俺は、俺でいられたんだ」


何かを思い出すような遠い目をして、彼は言う。


「…わからないよ」
どうして笑っていられたの?
なんでそんなにも、力強くいられたの?
"私"たちの存在が、幸村にどんな影響を与えたんだろう?


「君たちはいつも、俺を支えてくれた」
はっきりと、幸村は続ける。
「俺だって、もう嫌だと叫んで投げ出したかったよ。
だけど、君たちとまたテニスをしたかったから」

だからどんな可能性にだってかけてみようと思えたんだ。



幸村が、ゆっくりと手を伸ばして私の頭に触れる。


「…怖いんだろう?」
「……うん、」


どうしたらいいのか、わからなくて


「苦しくて苦しくて…消えたく、なる」





ぽつり、呟くと
幸村は泣きそうな顔で笑った。




「な、に?」






ダイジョウブ。

幸村の口は、確かにそう動いて…そして、微笑んだ。


「不安な時は、教えて。いくらでも話を聞くよ」
「え…?」
「俺たちはが帰って来るのを待ってるんだ。だから、」

消えたいなんて、言わないで。



「…本当に、待っててくれるの?」
「当たり前だろ?」
「時間がかかるかもしれないよ。元通りになんて、ならないかも…!!」
「それでも待ってる。…だって、待っててくれたじゃないか」



待っていたのは"私"だったのに、なんて思う余裕はなかった。
私が欲しかったのはその言葉だったのだから。







ふわりと微笑んだ彼は、やっぱりどこか泣きそうで
それを見た私も、無性に泣きたくなって

私たちは顔を見合わせて、少しだけ涙を流した。





(あの頃のキミと、今の私)(零した涙は不安の証)