朝、目が覚めてカーテンを開ける。
窓から見える街並みは、相変わらず馴染みの薄いものだったけれど。
("私"は、どんな気持ちで通ったのかな)
そう考えたら、自然に笑みがこぼれた。
17
久しぶりの私服に着替え、スリッパの代わりに靴を履く。
私のものでないはずのそれらは、不思議と身体に馴染んだ。
落ち着かない様子の私に、担当の看護師さんが一通り説明をしてくれる。
具合が悪くなったらすぐ病院に連絡すること
次の入院のための検査日程、など…
説明が終わると、ようやく看護師さんは微笑んで言った。
「…退院、おめでとう」
***
鞄に放り込んだ手帳の住所録から"自宅"と書かれた住所を探し、タクシーの運転手に告げる。
…やっぱり、叔父だというあの人はあれっきり来なかった。
私もそれでいいと感じていたから、それに対しては何も言わないけれど。
(…退院の時くらい、来てもいいんじゃないかな)
ふう、とため息が漏れて、慌てて私は頭を振る。
今は考えるのをやめよう。せっかく、外に出られたのだから。
屋上から見下ろすだけだった街並みが、同じ高さでどんどん後ろへと流れていくのを見ながら
私は、彼らの顔を思い浮かべていた。
本来は見られるはずがなかった、彼らのテニス。
"私"の分まで目に焼き付けようと、決めたんだ。
時計が差す時間は、部活動開始直前。
(…間に合いそう、だよね)
着きましたよ、と言った運転手に少し待ってもらえるように頼んで、
大急ぎで荷物とともにマンションへと駆け込む。
(…マンションの豪華さには、また後で驚くことにしようか、な…!!)
どれだけ"私"と住みたくなかったんだろう、と苦笑しつつ、運び込んだ荷物とともにクローゼットの前に立つ。
さすがに私服で学校には行けないから、着替えなければならないんだけれども。
(…さて、何を着ようか)
考える間もなく、私は荷物の中からジャージを選び出す。
(これしか考えられない、よね)
小さく、笑う。
彼らはどんな顔をするだろう?
さすがに寄せ書きだらけの上着は着ることが出来ず、
仕方なしにTシャツとジャージで出かけることに決めた。
…後で文句を言ってやらなきゃ。"私"のジャージに何してくれてるんだ、って。
きっと彼らは笑ってくれるから。
鞄に部屋の鍵と財布、携帯を放り込む。必要なのはそれだけだ。
戸締りをして、大急ぎでタクシーへと戻る。
「立海大附属高校まで、お願いします!!」
(早く、君たちの笑顔を見たい)