不思議なものだ。
本来、私はここにいた存在ではないというのに。

…こんなにも落ち着く空間なのは…何故だろう。




   19




結局、みんなに押し切られて、コート脇のベンチに座らされる。
彼らの試合を見る特等席だ。
だけど…ねえ何でみんな、周りに集まってるの?


、退院は決まってたんだよね?何で日にち教えてくれなかったの?」

にこり、と美しい笑顔で目の前に立つ幸村。…なんでだろう、土下座したい衝動に駆られる。

「いやあの、突然決まってさ!別に驚かそうとかそんなこと考えたんじゃなくて!」
「驚かせようと考えた確率76%。残りはただ単に忘れていた、というところだろう」

ノートをパタリ、と閉じる柳は、この状況で一体何のデータを取ったんだろうか。

「何はともあれ、お元気そうで安心しましたよ」
「ああ。よく帰ってきたな、
「ありがとう柳生、ジャッカル」

優しく微笑んでくれる二人は、期待を裏切らないコメントだ。

「あー!それ、病院の前の店で売ってるマカロンじゃねーか!」
「何スかそれ?…おおお、美味そう…!!」

こちらの食いしん坊コンビも、ある意味で期待を裏切らないけれど。(差し入れ買ってきてよかった…!!)

「ん。がジャージ着てるん、久しぶりに見るぜよ」
「うむ。やっと、揃ったな」

…仁王と真田の言葉に、ちょっと泣きそうになったのは内緒だ。




(不思議、だなぁ)

ここは本来、"私"の居場所だったというのに。
何でこんなにも落ち着くんだろう。
…まるで、ここがもともと私の居場所だったみたい。





幸村の耳打ちに、意識を戻す。
「ん?何?」
「次の入院のこと、手術のこと…みんなには、まだ言ってないんだ」
「…そう、」
「だから、自分で言うんだよ」


…今度の笑顔は、さっきとは違う。
(…こんな優しい顔、出来るんじゃない…)


"ダイジョウブ"

そう言ってくれた、あの時だってそうだ。









大丈夫。



大丈夫。





幸村が差し出してくれた手を、握る。




大丈夫。



大丈夫。




みんながいてくれるから、怖くない。
私は、絶対にここへ戻って来るんだ。










「あの、ね」


騒いでいたみんなが、こちらを向く。


「この退院は、一時退院なの」
「え…?それ、どういうことっスか?」


「県大会の頃に、手術をすることになったんだ」





(無言の応援が、手から伝わってきた)