怯えを見せないように、
震えているのに気付かれないように。
ゆっくり、言葉を発する。

「え、と…お久しぶり、です…」




   21




退院。
それはつまり、学校に行かなければいけないということ。
いや、学校に行けるっていうのは嬉しいことではある。
ただし、問題がひとつ。

(クラスメイトを覚えていないって…まずい、よなぁ…)

そう。
いくら入院していた期間が長いといっても、クラスメイトの顔を忘れるほどの長さではない。
忘れた、では済まされないということだ。
クラス替えをしているだろうと思ったのに、どうやらしていないらしい。仁王とブン太が「教室行こうぜぃ」「忘れとらんじゃろ?」なんてのしかかってきたから。
…正直言って助かった。教室の位置なんて知らない。



ただ、扉の前に立った瞬間に気づいた…困った事態。



(…私、自分の席知らないし…クラスメイトの名前わからないじゃん…)



「なーに百面相しとるんじゃ」
「え、あ、いや…」
「あ、そういや席替えしてたんだよなー。えーっと、の席はー…」


助 か っ た !!


「あーあそこ。窓際の前から三番目」
「あそこ?」

ベストプレイスである一番後ろではなかったけれど、窓際という時点で当たりはいい。
片側にしか人がいないというのはラッキーだ。
これで、問題はクラスメイトの名前だけになった。


一歩、踏み出すと、静まり返る教室内。


…どうしよう。沈黙に耐えられそうにない。
自分に視線が集まっているのを感じながら、ようやく席に辿りつく。
(…やるしか、ない)

「…え、っと、あの、」
「おらみんな席に着けー。おー、体調は大丈夫か?」



なんてタイミングだ。
止まっていた時間が、入ってきた担任(らしき人)の一言で動き出す。
時が動き出し少しだけざわついた教室内は、ホームルームを始める担任の声で
再び静かになっていった。


気付かれないよう、ため息を吐く。
事態は何も変わっていないんだけれど、どっと疲れた気分だ。
連絡事項を話す先生の声をぼんやりと聞きながら、私は意識を窓の外へと向ける。



「……と、連絡は以上だ。!」

突然名指しで呼ばれ、飛び上がってしまった。
くすくすなんてもんじゃない、自重しないブン太の笑い声が聞こえて、
思わず少し前にあるその背中を睨む。

が今日から教室に復帰だ。サポート頼むぞー。んじゃ、終わり」



言うだけ言ってHRは終了。
…瞬間、クラスメイトのみなさんに囲まれました。


ちゃん久しぶりー!」
「本当にちゃんだー、少しやせた?大丈夫?」
「無理しないでね?出来ることあったら手伝うよ!」

等々、かけられる温かい言葉に、涙腺が緩む。



(…大丈夫、零さない)


代わりに、精一杯の笑顔で「ありがとう」を。











(キミの代わりに伝えるよ、)(心からの感謝を)