「ちゃんやんか」
「久しぶりだな」
声をかけられて、思わずひっ、と小さく悲鳴を上げる。
私の悲鳴を聞いたのか、目の前に立ちふさがった幸村が、笑みを深くして2人を見た。
24
さっきまで私の後ろにいたはずのブン太と仁王も、どこからかさっと現れて幸村の隣に並ぶ。
「氷帝もマネ連れて来たんじゃろ?」
「に迷惑かけんなよ?」
跡部や忍足が口を開く前に、ブン太目掛けてジロくんが飛びついてくる。
それをきっかけに、その場に次々と人が集まり始めて、私はひとりため息。
なんだかんだ言い合っている癖に、楽しそうに見えるのが不思議だ。
みんなに気づかれないように、そっと荷物を持って割り当てられた部屋へ。
大急ぎで室内に入り鍵を閉めて、ようやく一言。
「な…なんなのあのイケメン集団…!?」
いや、立海だって(慣れてしまったけれど)格好いい人たちばっかりだ。
だけどさすが、ホスト集団と呼ばれるだけある。
「が、頑張ろう、私…」
理性をしっかり保つんだ、私!
なんてガッツポーズをしていたら、軽やかなノック音がして飛び上がる。
「ど、どなたですか…?」
「氷帝のマネージャーをしています、松木です」
「松木さん?あ、ごめんなさい。どうぞ?」
慌てて扉を開けると、そこには可愛らしい女の子。
…と。
「こんにちは、さん。久しぶり」
(た、滝くんじゃないですか…!!)
思わぬ訪問者に、一気に冷や汗。
氷帝メンバーを"私"が何と呼んでいたのかがわからなくて、
出来るだけ顔を合わせないようにしようと思っていたんだけど…
(面識があったらしいことはわかっても、呼び方がねえ…)
頼みの綱の日記に書いていないのだから仕方ない。
…ええい、こうなったら!
「ひ、久しぶり滝くん」
「挨拶しようと思ったのに、いつの間にかいなくなってたから。体調崩してたんだって?」
セ、セーフ…!
「あ、うんまあ…でも平気だよ」
「無理しちゃ駄目だよ。松木さんも僕もいるから、頼ってね」
「はい、任せてください!」
優しい笑顔の滝くんと、きらきらの瞳で見つめてくる松木さん。
(Oh…!Yes…!!)
声は出ていなかったけれど、表情には出ていたらしい。
2人はくすっ、と笑うと、「じゃあまた後で」と去っていく。
…が、頑張ろう、私…
***
「だからさっきからそう言ってんじゃねーか!な、?」
上げた声に返事はなくて、俺は…いや、俺たちは揃ってそこにいたはずの姿を探す。
いつの間にかそこから彼女の姿は消えていて、幸村くんが困ったような表情を浮かべた。
「…何も言わずに消えるから困るよ、は…」
「荷物もないしな。大方、部屋に荷物を置きに行ったのだろう」
「マジマジすっげー…ちゃんって忍者みたい…」
「それなら部屋にいるってことだろ。きちんと挨拶出来なかったしな、行くぞお前ら」
「はあ?何言ってるんすかあんたら」
再び睨み合う俺らに、後ろから声が掛かる。
「まだここにいたんだね」
「滝!」
「さんなら部屋にいたよ。もう少ししたら来るんじゃないかな。ね、松木さん?」
「はい。体調もよさそうで、安心しました」
氷帝マネの言葉に、俺たちの動きが止まる。
同時に、この合宿が終わってから待ち受けている、"試練"を思い出したらしい。
氷帝の奴らは「ああ、体調崩したって言うてたな」「すっかり忘れてたぜ」なんて呑気に言ってやがる。
「…っ、とにかく!に負担かけるんじゃねえぞ!」
らしくもない、焦った声が出た。
それぞれ荷物を持って、割り当てられた部屋へ向かう。
幸村くんに聞いたところによれば、氷帝のマネである松木とはそれぞれ1人部屋らしい。
階段に一番近い2部屋が2人にあてがわれ、あとのメンバーはそれぞれ2人部屋だという。
つまりそれは、必ずの部屋の前を通るってことで。
「?」
「せんぱーい?」
もちろん俺らは声をかける…が。
「返事がありませんね…」
「先に行ったんかのう」
のことだし、先にコートへ行ったんだろう。
幸村くんはそう判断したらしく、少し硬い表情で俺らを集めた。
「…みんなも、思い出したと思うけど。は、近いうちに手術をするだろ」
「…」
「もちろん、連れてきておいて何もさせないわけにはいかないし、だってそれは望まないだろうね。
…だけど、出来ることは、自分たちでやろう。氷帝だって、それは分かってくれるはずだ」
「…当たり前じゃないっすか」
「もちろん、そのつもりだぜ」
「うむ。心配はいらん」
口々にそんなことを言う俺たちに、幸村くんは安心したらしい。
表情を緩めると、その場に置いていた荷物をひょいと持ち上げる。
「にいらぬ心配はかけたくないからね。これは、俺たちの中だけの秘密だ」
そして背中を向けて、自分の部屋へと入っていった。
それを見て俺たちも一瞬顔を見合わせ…小さく頷いて、同じように部屋へと向かう。
その後ろで、ドアが小さく開いたことに、俺たちは気付かなかった。
(秘密の相談)