「みんな、グラスは持ったかい?」
「うむ」「おう」「ウイッス!」
「じゃあ、」


乾杯!!




   Jumpin' Again!〜忘年会だよ、全員集合!




ぷはあ、とおっさんのように(失礼)息を吐く面々を見ながら、私もゆっくりとグラスを空ける。
…なんだか、飲むお酒にも個性が出ている感じがするから不思議だ。


真田は熱燗。お猪口片手に、柳と話している。
その柳は照葉樹林を飲んでいるらしい。(グリーンティーリキュール…いかにもだな、)
端っこではジャッカルと柳生が、それぞれカルーアとワインを手に苦労話中。
手前でブン太と幸村が、アレキサンダー(…あれ、超甘口だよ、ね…?)とマッコリを交換して味比べ。
一人で窓際に陣取った仁王は、辛口のマティーニをちびちびと飲んでいるようだ。
そして私の隣では、赤也が涙目でレッドアイを見つめている。

…涙目?




「赤也…?どうしたの?」
「…これ…ビールなんスね…」
「え?赤也知らなかったの?」

こくり、と頷く赤也に、みんなが噴き出す。

「赤也ってビール苦手じゃなかったっけ?」
「ああ、前に精市が飲ませた時も苦いと言っていたな」
「ぷ…っ、赤也だせぇ」
「たるんどるぜよ赤也」


笑うみんなに、赤也は涙目のまま何も言えないようで。
見かねたジャッカルが自分のカルーアミルクと取り換えていた。




「そういえば、最近みなさんはどうしているんですか?」

みんなの笑いが収まったところで、ふと柳生が口を開く。
…確かに、大学を卒業してから何だかんだで全員では会っていなかったか。

先に卒業したみんなは就職したし、私は卒業してすぐに短期の語学留学で海外へ。
まだ大学生の赤也も内定はもらったらしい。
それぞれの近況を報告して、それにちょいちょい質問を挟んだりコメントを入れたり。
…赤也がちゃんと単位を落とさずにいるっていうのがびっくりだけれど。

みんなの近況報告を聞きながら、もちろん酒は進む進む。
仁王が見つけてきたらしい隠れ家的なこの店は、料理もお酒も本当に美味しい。
彼が見つける店には外れがない。いつも、雰囲気も味も最高なのだ。
一度、私が海外に行く前に連れて行ってもらった(というか連行された)店もそう。
こう…なんだか、ぽろっと心の内を打ち明けてしまいそうな、穏やかな雰囲気の店ばかり。


そんな雰囲気にのまれたのか、真田も今日は「赤也あああああ!」なんて怒鳴っていない。
といっても、今日は赤也もレッドアイの効果で大人しいのだけれども。



赤也の近況まで聞き終わったところで、私はお酒を頼もうとメニューを探す。
お目当てのそれは、幸村の手にあった。

「あー幸村、次私、も…」





ち ょ っ と 待 て 。





何だ、この幸村の目の前のグラスの山は。
おかしい。だって幸村、さっきまでブン太と味比べしてなかった?


「ああ、あれ?あれは3杯目」


まずい。非常にまずい。幸村の目が据わってきてる。
在学中の飲み会で、酔った幸村は性質が悪いというのは周知のことなのだ。


「真田ーなんか面白いことやれよ」

そう、幸村は酔うと絡む。とにかく絡む。ひたすら絡む。
大体被害に合うのは真田なんだけども、


「む、面白いこと、だと」


ふむ、と一瞬考え込んで立ち上がり


「こんなこともあろうかと用意をしてきたぞ」


きゅっと頭にねじり鉢巻き、取り出したるはひょっとこお面。


(真田は真田で…無茶振りと思ってないんだよね…)


「真田いいよーもっとやってー」
「いいだろう。大学での講義が役立つとはな!」
(講義って…いや、日本文化やってたのは知ってたけど、使い道違うでしょ…)



盛り上がってる2人を見つつ(駄目だこいつら意味わからない)、
私は酔っていない(言い換えればまともな)メンバーを探す。
…が、辺りを見回した私は、まともな人など皆無だということを知った。


「大体ですね仁王君。君は女性に対しての気遣いというものが…」
「やーぎゅー…眠いぜよー…」
「仁王君!話を聞いていますか!?」
説教を始める柳生と、その傍らに伸びている仁王。

「ジャッカルうー…その最後の芋餅、俺にくれよおおおお…」
せんぱああい…高校ん時、先輩の対丸井先輩用のお菓子食ったの俺ですうう…すんませんでしたあああ…」
「…はあ。こいつらまたか…」
「…手を貸すぞ。ジャッカル、


訂正。ジャッカルと柳は素面に近かった。
左からブン太に泣きつかれているジャッカル、右から赤也に謝られている私。
そして手を貸してくれた柳の3人で、顔を見合わせ苦笑。
…いつもこういう役回りだ、私たちは。
適当に宥めて、離れたがらない2人を床に転がす。
そして、仁王が陣取っていた窓際に並んでため息を吐いた。



「最近どう、2人とも」
「まあまあだな。ジャッカルは?」
「ああ、順調だ。は?留学、どうだったんだ?」
「うん、やっぱり楽しかった。赤也が聞いたら、"ありえない"とか言いそうだけどね」
「…赤也の英語の点数、懐かしいぜ…」
「主に勉強を教えていたのが俺たちだったな」


背後では、未だに盛り上がるどじょう掬いの掛け声と幸村の合いの手。
柳生の説教の相手は、赤也に移ったらしい。
3Bコンビは揃って最近流行っている歌を大声で歌っている。


「…騒がしいねえ」
「…毎回懲りない俺たちも俺たちだけどな…」
「あはは。だって、」



こうやって騒ぐのも、けっこう好きだからね。


「ジャッカルも、柳も…でしょ?」
「まあ、な」「…ふっ、」


なんだか照れくさくなって、私たちは顔を見合わせて笑う。

と。



「なーにやっとんじゃー」
「ぎゃ、仁王酒臭い。重い。退いてー!」

「ジャッカルうう焼き鳥食わねーなら俺が食うぜぃ」
「柳さあああん何飲んでるんスかあああ」
「ちょっとみんな、何で真田が渾身のどじょう掬いしてるのに見てあげないんだよ!」
「いいんだ幸村…俺のどじょう掬い能力がまだまだ足りないのだ…」
「ですから真田君、その網の角度では…」



さっきまでの空気はどこへやら。
落ち着いて飲んでいたはずの私たちは、一気に騒々しさのど真ん中へ。



(それでも、)



それでも、嫌だなんて思わないのは。



(この騒がしさが、大好きだからなんだ…)



私も
もちろん、隣で呆れながら笑っている彼らも。







「あああ、もう少しで12時だよ!カウントダウン!」
「蓮二、時計は?あと何秒?」
「あと30秒……20秒……」


10秒前から、みんなでカウント。




よん

さん



「いち、」





あけまして、おめでとう!!

(今年も、君たちと)(騒がしい、楽しい、一年を!)