「ふとん…ふとんよこせよ…」
「…さむい…」

今年も、こんな年明けを。





   Jumpin' Again!〜大戦争だよ、全員集合!





今年も無事に御節を作り終え、年越しのカウントダウンも終わった。
いちばん初めに、彼らに新年の挨拶を出来て、嬉しく感じていたんだけれども。


戦争は、この後にやってくる。




今年の集合は、仁王の家。
一人暮らしの長い仁王の家に、寝具なんて全員分あるはずがない。

かくして、始まりました。
題して「布団争奪!大トランプ大会」!


「…って、あんたら女の子に譲ろうだなんて考えないわけね」
「女の子?どこかにいたか?」

真顔でキョロキョロ辺りを見回すブン太に、きついお仕置きを。

「いてててて!何すんだよ、比呂士!」
「いくら付き合いが長いからと言って、それはいけませんよ。きちんとさんに謝ってくださいね」

私が怒る前に、柳生が怒ってくれましたがね!
…まあ、布団の持ち主である仁王も強制参加っていう時点で、そういう贔屓はないって思っていたけれど。


ルールは簡単。
ババ抜きを3回やって、その総合順位の高い順に布団が与えられる、っていう。
学生時代に誰かしら泊まりに来ていたために、来客用の寝具が2組揃っていることが救いだ。

(これで1位しか布団で寝られないだなんてことになったら、ものすごく大変だからね…)


つまり、上位3位に入ればいいってこと。
「ま、負けてはならんのだ…!」







決着は、あっさりついた。

第1位…
「負けるわけにはいかんぜよ」
トランプでも詐欺師を発揮した仁王。…まあ、部屋の主だから当然っちゃ当然だけどね。
第2位…
「死角はない…なんてね。久しぶりに言ってみたかったんだ」
にっこり、良い笑顔で微笑む幸村。…トランプの間中ずっと怖い笑顔だったのは、本人だけが知らない。
そして第3位は、
「負けてなんかいられないのよおおおおお!」

はい!
第3位、無事にお布団をいただきました!!


次点のブン太が睨んでいるけれども、知ったこっちゃない。
負け続けだった赤也が床にめり込みそうなほど落ち込んでいるけど、構うものか。
柳生と柳は諦めた様子で、収納棚の中にあった毛布を出してきている。

こうして、無事に布団を勝ち取った仁王、幸村、私
そして、負けてしまったブン太、柳、ジャッカル、柳生、真田、赤也
それぞれが、夜を明かすための準備を始めた。
…のだけれど。







「…落ち着かない…」

布団はちゃんとゲットした。
客間にしていた一部屋もありがたくいただいて(ちゃんと気を使ってくれたらしい)、あとは寝るばかりだというのに。

「…眠れないなあ」

負けたみんなの騒ぐ声が響いていたリビングも、気付いたら静かになっている。
小さく溜め息を吐いて起き上がり、冷えた廊下に足を踏み出す。


ぺた、ぺた


自分の足音だけが響いて、ぶるりと身震い。
みんなを起こさないように、リビングの扉を開けるとするりと中に入る、と。


「…ふ、」

笑い声が漏れて、慌てて自分の口を塞ぐ。

(…なにこれ、大荒れじゃないの)

布団を奪われないようにと仁王の寝室に籠城していたはずの2人は、1枚の掛布団を分け合ってソファーに丸まっているし。
もう1枚の掛布団を奪い取ったらしい柳と、それに引っ付く赤也は床に転がっている。
残る面々は、敷布団に包まっている人あり毛布に包まっている人あり…

(…何が起こったのやら)

暖房は点いているからあまり寒くはないだろうけれど、それにしてもこれはすごい。
枕元に携帯を置いてきたことを後悔しつつ、抜き足差し足でキッチンへ。
部屋の主には起きてから謝ることにして、冷蔵庫を開ける。

(ホットミルク…いや、ココアにしよ)

牛乳はあそこで、ココアは…

「えーっと、ココアココア…」
「ココアなら俺の分もー」
「はいは……え」

突然の囁きに驚いて、勢いよく冷蔵庫を閉めてしまった。

「ちょっ…誰か起きたらどうすんだよ」
「いや、ブン太が突然声掛けるのが悪い」

幸いにも誰かが起きた様子はなく、みんなの寝息が聞こえてきてほっとする。

「ブン太起きてたの?」
「寒くて眠れねーっつの…毛布1枚はさすがに無理」
「だから何がどうなってこうなったのよ」

小声で会話しながら牛乳を火にかける。
とろりと点いたコンロの火に手をかざす私を呆れたように見ながら、ブン太は棚からマグカップを取り出すと
てきぱきと準備をしてくれた。
湯気の揺れるマグカップは、凍えた指をじんわりととかしていく。


「美味しいー」
「結局俺に準備させてんじゃねーかよ…」


溜め息を吐きながらもそれ以上何も言わないところがブン太らしい。
呆れたように寄せられた眉根は、ココアの甘さにゆるりと解れる。


「んで?無事に布団をゲットしたさんはなんで起きてきたんですかね」
「えっ?……いや、眠れなくて」
「トランプやってる最中から眠そうだった癖に何言ってんだ」


ぺち、と軽いデコピンを喰らってしまった。


「だって、あんたらが楽しそうだったから」
「は?」
「客間、もらったのは嬉しかったけど。なんか……楽しそうで」


思いのたけを口に出してしまうと、なんだか恥ずかしい。
居た堪れなくなってマグカップの中身を干すと、廊下へと足を向ける。


「美味しかった。やっぱりブン太のココア最高だね。じゃ、おやすみ」
「待てって」


襟元を引っ張られて、ぐえ、と変な声が出た。


「なにすんの!」
「淋しかったんだろい?布団持って来いよ、手伝ってやっから」



一緒に寝よーぜ?



ウインク付きで発せられた、なかなかに際どいその発言も
長い付き合いの間柄、私を気遣っての言葉だとよく分かる。



「…ブン太って、私を甘やかすの上手いよね」
「そーか?」
「ブン太だけじゃないけど。みんなそう」





居間を出る時、ちらりと振り返った景色。
入ってきた時と、みんなの並びが少し違う。


不自然に空けられた、炬燵の隣の一番寝やすいスペース。
あちこちに散らばっていたはずのみんなは、そこから一定の距離を保って全員こちらに背中を向けている。



(ずるいなあ、みんな)


これじゃあ、御礼なんて言えないじゃないか。






もちろん、居間に移動した布団一式は、あっという間にみんなとの争奪戦になったけれど。
さっきよりずっとずっと温かい気持ちで、眠りについた。


















温かさを分け合って
(ありがとう、大切な君たち!)(新しい年、君たちに幸あれ!)