さよなら、と告げる声は
自分でも無機質に感じて




   08:二度とは還らない




「なんじゃ、また別れたんか」

暮れていく教室で窓の外を見つめていた彼は、
その銀色の髪を夕日色に染めてこちらを振り向いた。

「うん」

いつだってそうだ、この人は。
別れる日を見抜いたかのように、景色を見るふりをして私が戻ってくるのを待っている。
この会話だってもうお馴染みで、私が誰かと関係を終わらせる度に繰り返してきた。



「今回は?」
「いつもと一緒」


お前はあんまり連絡取ろうとしないよな。
あいつはよくメールくれるんだよ。
そんな言葉で隠された、"終わり"のシグナル。


「はっきり言えばいいのにね」
「…ふぅん」

自分で聞いておいて、勝手な男だ。
大して興味もなさそうに、鞄からしゃぼん玉を取り出して窓なんて開けている。
これも、いつもと同じ。お決まりの行動だ。



「わかってないのよ」
「わかってないんか」


ふう、と玉に込められる息。


「私が何を求めてるか、」
「おまえさんが何を考えてるか」


ふわふわと漂う球体を、思わず目で追う。




「ねぇ仁王」
「ん」
「付き合うって、なんだろうね」
「…」
「恋をするって、なんなんだろう」
「…」


仁王はただひたすらに、球体を膨らましては飛ばし続ける。



「夢中になったら、負けなのかな」
「それなら、」





ぱちん、





「俺は、とっくの昔にお前さんに負けとった」








目で追っていたそれは、思ったより簡単にはじけた。








「…仁王は、ずるい」


そこはもう、私の居場所じゃないのに

そこに、私はもういてはいけないのに





「仁王だって、わかってない」








(私が本当に望んだのは)("私"という存在が消えてしまうこと)
(出来ないのなら、せめて)(お願い、さよならの言葉でこの関係を壊して)





二度とは還らない
(それでもきっと、私はまた繰り返そうとするんだ)