コツ、コツ


突然のノック音に、眠りかけていた意識が戻って来る。


コツ、コツ


どうやら自分の部屋ではなく、隣の部屋の音らしい。
(隣の部屋…、か?)
ぼんやりとした意識の中に、日本の遠い親戚であり自分たちと共に仕事をしている
彼女の顔が浮かんでくる。
(こんな時間に誰だ…?)


「オレだ」
「…アーサー?
随分遅かったね」
続いて、鍵を開ける音。
「どうぞ?」

そして、ドアが閉まった。


(と…イギリス!?)
聞いてしまった事実に、半分まどろみかけていた意識は冴え渡る。
(そういえば、前から仲は良かった、が…
いやいや、は昨日任務を終えて帰ってきてから部屋にこもりきりだったはずだ。
寝る前にノックしても返事が無かったのに…何故イギリスにはドアを開ける?)
考え始めるときりが無い。
仕方無しに閉じていた目をゆっくりと開ける、と…


「なっ…!!」

隣には涎を垂らしつつ眠る同盟国、イタリアの姿。
(…何なんだ、何でコイツが俺の隣で寝ているんだ…?)
はぁ、と深いため息を吐き、少し乱暴にそれを揺さぶる。
「あれぇ、ドイツおはよ〜」
「おはよー、じゃない!何でお前がここで寝ているんだ!?」
「ヴェ〜、ドイツと寝たかったから〜」
ふざけた文句を言うその首根っこをしっかりと引っつかんで、
ドイツは彼をドアまで引きずっていく。
「自分の部屋に戻って寝ろ!いい「や、ぅ…っ」…え」


…目の前のイタリア、では無い。
この声は…



「やっ…、ちょっ、と…」
「静かにしてろって、あんま大きな声出すとバレるぞ?」
「ッ、だっ、てこれはアーサーのせい…っ!!」

…隣からだ。
しかも困ったことに、

「あれ〜、この声…」
「ききき気のせいだ、気のせ「っアーサーってばぁ…!!」

「…イギリスとちゃん?」
(…バレた)



あれから数十分。
隣の部屋からは絶えることなく"声"が聞こえてくる。

「ちょっ…痛い、ってば」
「もうそろそろ慣れてもよさそうだろ!」
「アーサーが下手くそなの!菊とかだったらもっとちゃんとしてるもの…っ!
それに、痛いものは痛いんだから慣れるはずないでしょ!」

(いや、痛いのは駄目だろう!)

「仕方ねーな…動けるか?」
「…手を貸してくれたら、ね!」

「イギリス、頑張ってるね〜」
「頑張っていると言っても痛いのはどうかと思うが!
女性の身体を思いやってこその行為ではないか!!」
「ヴぇ?ドイツ、何言ってるの〜?」

「…っ!やっぱ無理、」
続いて、ドサリと崩れ落ちるような音。

…さすがに、ドイツの我慢も限界だった。

「イギリスゥゥゥ!!」


ドアを開けたドイツが見たものは、
床に座り込むとそれを支えるイギリスの姿。



しかし、




服はきちんと着ている。


「…え」




「おまっ、お前なぁ!何考えてんだよっ!!」
「ヴぇ〜、ドイツ知らなかったんだ〜」
「ルート…」
三人からそろって哀れみの目で見られ、ドイツは思わず顔を背ける。
「その…だな、お前らが紛らわしい会話をしているのが悪い」


つまりはこういうことらしい。
とイギリスで仕事に行ったのだが、イギリスの油断により爆弾の一つが爆発。
運悪くがその爆発により負傷してしまったそうだ。
そしてイギリスに「自分の責任だから手当てはオレがする」と押し切られ…
部屋に篭っていたらしい。

「何せ歩けないしねー。コンクリ足にくらったから」
「…秘密にしたいっつったのはお前じゃねーか」
「や、アーサーがボッコボコにされてもいいんなら別に構わなかったんだけどね?」

そして、あの声は。

「あぁ、あれはアーサーが悪いの。だって確認もしないでガーゼ剥がすんだよ!?
菊なら絶対一声掛けるもの!」
「一声掛けたって痛いものは痛いだろ!」
「そうだけどねぇ、覚悟が出来るじゃない覚悟が!!」
言い争いを始めようとする二人。
だが、間に入ったドイツの質問により口を閉じた。
「…秘密にしたい、と言ったが…
何故イタリアが知っていたんだ?」
答えたのはイタリア。
ちゃんが帰ってきたって言うからさ〜、ハグしに行ったんだ〜」
「フェリってば、突然入ってくるんだもの!隠れる暇もない!」
「…それでバレた、と」
苦笑して頷く彼女に半分同情しつつ、ドイツは大あくび。
「ふぁぁ…
悪いが先に寝させてもらう」
イギリスの声で目が覚めてしまったのでな、と厭味たっぷりに言えば、
彼は少し居心地が悪そうに目を逸らす。
「はいはい。おやすみ、ルートとフェリ」
「うん、おやすみ〜」

…普通に後ろをついてきたイタリアを部屋から追い出し、
ドイツはやっと眠りについた。




次の日、他国に「ムッツリ」とからかわれることも知らずに。


(やっぱりお前ムッツリだったんだなー)(…黙れフランス)
(イギリスさん…に怪我をさせたそうですね…?)(う、あ…スマン日本!!)

(内緒だったはずなのに、な?)





†バラしたのはフェリでした。(笑)