誕生日は、もっと嬉しいモンだと思ってた。
他の先輩たちの誕生日の時みたいに、
なんだかんだ言って騒がしいあの人たちが祝ってくれるに違いないって。
だけど。

だけど…やっぱり俺には、この差を埋めることが出来ないんだ。




   Dear Prince!




違和感は、前からあった。
引退したくせして、うるさいくらいに部室へ遊びに来ていた先輩たちが
9月も半ばを過ぎた頃から、めっきりと顔を出さなくなったんだ。


もちろん廊下で顔を合わせれば話だってするし、
いつもみたく丸井先輩たちと馬鹿やって、幸村ぶちょー…幸村さん、と先輩に苦笑されて。
そんで、そこを通りかかった真田ふくぶちょー…違った、真田先輩に(…すっげー違和感…)
「廊下で騒ぐな、たるんどる!」なんて言われたりもして。

だから、気のせいだと自分に言い聞かせてた。
先輩たちとの距離が、段々と離れてきてるなんて…そんなはずは、ないって。




でも。
さすがにおかしいと気付いたのが、今日。
9月25日、俺の誕生日。


去年だって祝ってもらったから、先輩たちが俺の誕生日を知らないわけではない。
仁王先輩が持ってきた箱を開けたらなんかよくわかんねぇ人形が飛び出して来たこととか
それを見た柳さんが笑って何かをひたすらノートに書き込んでたこととか
柳生先輩とジャッカル先輩がプレゼントにくれたグリップテープがすっげー使い心地よかったこととか
全部、ぜんぶ覚えてる。


なのに、
今日は朝から、誰にも会ってない。


丸井先輩にお菓子を集りに行こうかと思ったのに、サボってどっか行ったらしかった。
仁王先輩もいつものようにふらっと消えたらしい。
何かイラっとして柳さんの所へ行ったら、先生に呼ばれたとかでついさっき出て行ったって言われるし
幸村ぶちょーも、真田ふくぶちょーも、柳生先輩も、ジャッカル先輩も…
みんな、それぞれ何かしらの用事で教室にいなかった。


「…ったく、何なんだよ…」
悪態をついて、壁を蹴る。

なんでみんな、いないんだよ。
引退して関わりがなくなったから、どうでもいいのかよ。


仕方なしに、自分の教室に帰ろうと踵を返す。
と、向こうから見知った顔が歩いてきた。
先輩!!」


先輩は、ちょっと驚いたような顔をして「どうしたの、赤也」なんてさらっと言う。


「今日、なんの日だか知ってます?」
「え?今日?…今日って何日だっけ…」





…ああ。やっぱ、どうでもよくなるもんなんだ。




「……何でもないっス」
「そう?」

にこにこと笑うこの先輩に当たっても意味がない。
いいんだ。自分の教室に帰って、キャーキャー騒ぐクラスの女子とかから適当にプレゼント掻っ攫って、それで終わりにしよう。

「あ、ちょっと待って赤也」
「…何スか」
「あのね、赤也にお願いがあるんだ。今部室の鍵持ってるの赤也だよね?」











***











「めんどくせえ」

思わず呟いてしまって、一瞬先輩に申し訳ない気持ちになった。



『部室にこの書類、戻しておいてくれないかな?』


俺の返事も聞かずに、昼休みのうちによろしくね、とどこかへと走って行ってしまったから、思わず。

「めんどくせえ」
もう一回。(先輩、すんません)



誕生日だってのに、なんでこんな、ついてないんだろう。
渡されたそれを放っておくわけにもいかず、仕方なしに部室へと向かう。



(…俺も、3年だったらな)
そうしたら、あの先輩たちと肩を並べられたのに。
はあ。
ため息を吐きながらポケットから鍵を取り出す。(柳さんに部室の合鍵を渡されたのはいつだっけ、)





ガチャ。
重い音を立ててドアが開くのと、



目の前に紙吹雪が舞うのとは同時だった。








「…え…?」
「赤也、何してるの。早く早く」

いつの間にやら俺の背後にいた先輩が、俺の背中を押す。
俺はと言えば、情けねえことにクラッカーの音で思考停止していて。
先輩に押されるがまま、部室の中へと足を踏み入れた。








立派なケーキに、飾り付けられた部室。
そして、笑う先輩たちの腕に抱えられたリボン付きの箱が、

ようやく、俺に何が起こったのかわからせてくれた。

「たん、じょう、び」

おめでとう、という声に、思わず涙腺が緩む。


「あーあ、だから言ったのに。いくらサプライズのためとはいえ
誕生日を忘れたふりをするなんて、言い出したのは誰だっけか」
「精市、お前だったはずだが」
「あれ、そうだっけ?」

「まったく…赤也、たるんどるぞ」
「そうじゃそうじゃ、たるんどる」
「真田君も仁王君もやめたまえ」

「俺の天才的なケーキ、作ってきてやったからよ!」
「ブン太すごーい。食べていい?」
「おい…主役は赤也だぞ…」


わいわいと騒ぐ先輩たち。
それは、いつもの誕生日の時と同じような光景。





「…俺、」
ぽつり、呟く。
騒いでた先輩たちが動きを止め、俺に注目した。
「俺、本当に誕生日忘れられてたんじゃないかって、不安だったんスよ」

先輩たちが部活に来なくなってから。
いや、もっともっと前…全国大会が、終わる前から。

「先輩たちと同い年ならよかったって、」

ずっとずっと考えてたんだ。
そしたらもっと対等に話したり、笑ったり、試合したり…
いろんなことが出来たのに。
誕生日が忘れられたことくらいで、こんなに不安にならなくてすんだのに。






「…俺はね、赤也」

幸村ぶちょーが口を開いた。

「赤也と同い年じゃなくてよかったって、思ってる」
「…え?」




「俺たちの大会はこれで終わりだけど…赤也には、次があるだろ」




俺たちは負けたけれど。
赤也には、次の大会がある。


「赤也が優勝旗を持ってくる姿が見られるから、」


だから、同い年じゃなくてよかったって思うんだ。



「…ずるいッス」
先輩たちみんな、ずるい。
そんなことを言われたら、
「頑張らないわけにはいかないじゃないっスか」
「当たり前だよ」

赤也には、頑張ってもらわなきゃないんだから。





「あーっ!丸井先輩ずるいっ!俺のケーキなのに!」
「お前が食わねーのが悪ぃんだよ!」
「ブン太…そのイチゴ、消えるよ」
「あ、ちょっそれ俺の!!…ったくのやつ…しゃーねえジャッカル、お前の寄越せ」
「悪い、赤也にやっちまった」
「ん。ほいじゃ、俺のをやるぜよ…赤也に」
「丸井君じゃないんですか…仕方ありませんね、私のを差し上げましょう。…切原くんに」
「それでは俺のイチゴをやろう…赤也に」
「フフ、じゃあ俺のも赤也にあげようかな」
「それならば俺のイチゴもやろう。受け取れ赤也」
「よしよし、じゃあブン太から奪ったイチゴも乗っけてあげようか」


大量のイチゴが乗ったショートケーキ。
ひとつ、口に入れると…甘酸っぱい、味がした。







Dear Prince!

俺たちの間にある年の差を埋めることは出来ねーけど、
(期待されたら、頑張らねぇ訳にはいかないじゃん!)