ほんの少しでも、
きっと幸せになれるんだ。
…本当は、いっぱい欲しいけれど。
Dear Prince
「ブン太…なにこれ?」
「いらね。やる」
目の前に積み上げられた、大量のお菓子。
それはあたしに向けられたものではなく、彼に向けられたものだ。
それを見て、あたしは思わず…
「…熱でもあるの?」
目の前の赤髪に聞いてしまった。
「ねーよ」
すかさず返ってくる答え。
「えええええ、じゃあ何で?明日は真夏日!?それとも大雪!?」
なんて言ったら、思いっきり頭叩かれた。
ちなみに今日叩かれたのはこれで3回目だ。
誕生日忘れてたって言った時と、プレゼント買うお金がないって言った時。
もう何億の脳細胞が死んだんだろう。彼に叩かれたせいで。
…このお菓子の山と周りの女の子たちからの怖い視線…ブン太なりの仕返しだろうか。
「ちょっとごめんね。、いるかい?」
女の子の壁を越えて顔を覗かせたのは、
「精市くん!」
おお、天の助け…さすがは神の子!
「やあ丸井。借りてもいいかな」
「別にいいぜ。用事ねーし」
「そう?じゃあ、行こうか」
「うん。先生に保健室だって言っておいて…ブン太?」
「…勝手にしろぃ」
…ブン太が拗ねてる。
ああ、精市くんにも「おめでとう」言ってもらえなかったからかな。
背中を向けたブン太に、精市くんと顔を見合わせてちょっとだけ笑った。
***
もちろん、あたしや精市くんがブン太の誕生日を忘れるはずがない。
メールをくれなかったと文句を言われているジャッカルだってそうだ。
「さすがだな。見た目も綺麗だ」
「そりゃああたしだって頑張りましたもの!で、蓮二のほうは?」
「ああ、問題ない。計画開始は4限終了と同時だ。精市、残りのメンバーは?」
「真田と柳生は4限が終わったらすぐに来るってさ。俺たちがサボってることは柳生しか知らないけど」
「ジャッカルせんぱーい、そっちもっと上げてくださいッスー」
「こんなもん、か?…悪い仁王、そこのテープ取ってくれ」
「これか?ほい」
ケーキにジュース、軽食まで用意。(作ったのはあたし)(このために早起きしたんだ)
凝ったことは出来ないけれど、ちょっとだけ部室も飾ったりして。
今朝の練習の時、仏頂面でクラッカーを持ってきた真田には笑いそうになった。
「用意はこんなもんかな?」
「そうだね。あとは丸井に誰が連絡するかだけど…うん、真田にやってもらおう」
「え」
…真田に任せたら馬鹿正直に言って連れて来そうな気がする。
「大丈夫、死んでも目的は言わないようによーく言っておくよ」
前言撤回。真田、ご愁傷様。
4限終了のチャイムが鳴る。
少し経って合流した柳生と共に、あたしたちはそれぞれ手にクラッカーを持ってスタンバイ。
「ちゃんと連れて来れるかな、真田…」
「…祈るしかないっスね…」
その時、だった。
「…何か聞こえるんじゃけど」
「俺の気のせいじゃなかったか…」
「…まぎれもなく丸井の悲鳴のようだが」
『ちょ、真田、降ろせえええええ』
『ええい、煩い!黙っていろ!』
『だから、説明しろって!』
『説明は出来んと言っているだろうがあああああ』
「…」
「……」
「…真田、後で制裁決定ね」
…真田、ご愁傷様。(2回目)
だんだん、声(というかブン太の悲鳴)が近づいてくる。
…そして、部室の前で止まった。
「…ったく、なんなんだよ…」
「入れ」
真田の声。恐る恐る、といった感じで開かれるドア。
顔を出したブン太に、
あたしたちは目で合図をして、クラッカーを鳴らした。
「ハッピーバースデー!!」
こうして、ブン太も機嫌を直して無事に誕生日パーティーをしたわけなんだけれども。
この日、立海に伝説が生まれたことを、あたしたちはまだ知らない。
4月20日―
『規律に厳しいことで有名なテニス部副部長真田弦一郎が、
必死の形相で丸井ブン太を抱きかかえ廊下を走り抜けた』
Dear Prince
(大切な仲間へ!)