4年に1度しかない、大切な誕生日。


残念ながら、今年は貴方の生まれた日ではないけれど。


大切な、
大切な日だから…



精一杯、祝おうと思うのです。



   Dear Prince




「周助!今週の土日は部活ないよね?」

知ってはいたけれど、一応聞いてみる。
彼はそれに優しく笑って「うん、ないよ」と答え、
続けて「どうして?」なんて言う。
「わかってるくせに!」
の口から聞きたいからね」
相変わらずにこにこ笑っている周助に半分呆れてしまった。
「どうして土日の部活のこと聞いたの?」
もう一度聞かれ、咄嗟に思いついた答え。
「あ、えと…マネージャーとして、」
「へぇ?そうなの?」


あ、ヤバイ。開眼した。

「…ごめんなさい」
「クスッ、分かればいいよ…それで?」
「〜!!言わなきゃ駄目?」

あまりにも笑顔が崩れなくて恐ろしいのだ、彼…不二周助という男は。
もちろんそれは言葉よりも確かな返事となる。

「…ッ、周助の誕生日、お祝いしようと思ったの!」
真っ赤になっているであろう顔を背けながら、半ば叫ぶように言う。
すると彼は本当に楽しそうに笑って「よく出来ました」と私の頭を撫でた。

…まったく。敵わないんだ、この笑顔には。


ちなみにここは昼休みの人がたくさんいる教室だということを忘れてはいけない。
現に周助の笑顔にやられている女の子たちがここにも、あそこにも。



…確かに、周助はすごくかっこいい。
そりゃあ…たまに放出される黒いオーラは…あれだけど。
中学の時から、彼の周りにはいつだってファンの子たちがいた。
付き合い始めの頃だって、いろいろとあったりしたし。
そんな彼の隣に高校生になった今もいられるということは、いろいろな意味で奇跡だったりする。
今更だけど…自信、無くすなぁ…



気付かぬうちに溜め息が漏れていたのか、周助が不思議そうに私の顔を覗き込む。
「どうしたの、そんなに暗い顔して」
「え?あ、別に…」
そんな答えでも、彼は上手く私の気持ちを掬い取るんだ。
「大丈夫。誕生日は、だけと一緒に過ごすからね」
「!!」

心の中を読まれているかのような、的確な言葉。
だけどそれは、確実に私の心を暖めてくれる。

「…約束、だよ」
さっきよりも紅くなった頬を見せたくない。
きっと周助は「してやったり」と笑うんだから。





***





土曜日は朝から大忙しだった。
家を隅から隅まで掃除して、周助のために料理を作って。
もちろん、悩みに悩んだプレゼントだってちゃんとテーブルの上に用意してある。
数十分前にオーブンに入れたケーキが、いい香りで完成を告げる頃…



ピーンポーン


「やあ。おはよう」
「周助!随分早くない?」
予定より大分早く到着した本日の主役は、「早くに会いたかったからね」なんて甘い言葉を平気で囁く。
「…もう!時間あるかと思って、紅茶買ってくるの後にしようかと思ってたのに!」
「そうだったの?じゃあ、僕が買って来ようか」
そう言って立ち上がろうとする周助を押しとどめ、財布を持って立ち上がる。
「いいよ。周助は今日の主役だからね」
すると彼は「いや、付いてくよ」と笑う。
「だけど…」
そうは呟いてみても、周助があまりにも嬉しそうに笑うから「留守番していて」とも言えず。
「…仕方ないなぁ」
結局、二人で出かけることになった。



外に出るなり、周助は堂々と私と腕を組む。
土曜日の昼間ということもあって、知り合いに合う確率はかなり高い。
それでもわざわざ彼が腕を組んだということは、何か考えがあるのだろうか。


「おーい、不二ぃー!」
どこからともなく聞こえてきた声に、揃って首を傾げる。
「英二!」
「おっ、もいたのかぁ!おデートうらやましーにゃー」
にゃはは、なんて笑う英二の隣には、見知った友人の姿。
「大石、久しぶり」
「ああ。不二もちゃんも、元気そうで何より!」
高校進学の時、外部受験をして他校に行ってしまった大石だった。
「不二とちゃん、まだ付き合ってたんだね」
「長いよなー。中三からだから、いち、に…」
「三年目だよ。そりゃあね、僕を手放す気ないし」
…普通にそんなことを言ってくれるのは嬉しい、嬉しいんだけど…


ここ、公衆の面前だから!!



「そういや、ちゃんたちはなんでこんなところに?」
大石の言葉に、本来の目的を思い出した。
「あぁ!周助、紅茶!!」
「紅茶?にゃんで?」
「僕の誕生日でね。僕が早く来すぎちゃったから、が買いに来る時間がなかったんだ」
「だってー、間に合うと思ったし…」
「不二の誕生日!?あ、二月最後だからか」
「じゃあ俺らも一緒にお祝いする―――「英二?」…にゃんてね、あはは…」
あれ、何でだろう。今体感気温が5度くらい下がったような。
「そう、残念だな。それじゃあまた今度…行こう、
「ま、まったにゃー!」
ぶんぶん、と大きく手を振る英二と、何故か引きつった笑みで見送ってくれる大石に背を向け、
私たちは足早に紅茶の専門店へ。
「ここって、最近出来た所でしょ?」
「そうそう。周助紅茶好きだし、絶対一緒に来ようって思ってたの」
「ありがとう。僕もと一緒に覘こうと思ってたんだ」
案の定、周助はご機嫌で店の中を見回している。
「マンゴー烏龍だって!初めて見た!」
「白桃烏龍は見たことあるけど、マンゴーか…どんな感じなんだろうね」
くすくす。笑いが止まらない。
結局見て回った結果、「モンテクリスト」という紅茶を買って帰ってきた。



「ごちそうさまでした。美味しかったよ」
「どういたしまして。それじゃ、ケーキ持ってこようかな。
周助は座ってて…って言いたい所だけど、周助の方が紅茶淹れるの上手いから、頼んでいい?」
「うん、任せて」
周助が紅茶を淹れてくれるのをじっと見つめながら、相変わらずの手つきの良さに見とれてしまう。
「周助の淹れてくれる紅茶、あたし好きなんだ。他の誰が淹れても、どうしても同じ味にはならないの」
「それは、僕がのために淹れてるからじゃないかな」
「ふふ、そうかもね」
この言葉も相変わらずだ。

茶葉の蒸らし時間も、周助はしっかりと計る。
その間に、「はい、これ」とプレゼントを手渡した。
「わざわざありがとう。ご飯とケーキでも十分だったのに」
「やーだ。あんなのじゃプレゼントにもならないよ」
…まったく。料理だけじゃ申し訳ないからプレゼント買ったのに、な…


ちゅ、と額に落とされたキスに、思考が中断した。


「ししし周助!?え、ちょ、何、」
「クス…、顔真っ赤」
至近距離で微笑まれて、私の心臓が悲鳴を上げる。
吐息まで感じそうなその近さに眩暈まで起こしそうになった。
「ね、
「ッ、なに…っ!」


あぁ、何で顔を上げたんだ、自分!

塞がれた唇に苦しくなって背中を叩くも、周助はなかなか離してくれない。
やっと離れたかと思えば、彼は珍しく余裕がなさそうな表情で私を抱きしめる。


「もうひとつ、欲しいものがあるんだけどな」
「な、に?」
「…が欲しい、」
…やっぱり、周助には勝てない。
だって、
「…大切に、するから」
「…ん」
こんなに嬉しそうに笑うんだから…







(大好きな君へ、)(生まれてきてくれてありがとう、そして、)(愛してくれてありがとう)






Dear Prince
(私だけの王子様へ!)