一度でいい。
一度でいいから、見てみたいの。
君の…
心底驚いた顔をね!
Dear Prince!
「蓮二ーっ!」
前方を歩く後ろ姿に声をかける。(あ、隣は精市くんかな)(相変わらず美人!)
「何だ?」
予想はついてるだろうに、彼は不思議そうな顔をするんだ。
「誕生日おめでとう!」
「…予想外だな。お前のことだから、丸井の時のようにサプライズでも企むかと思っていた」
「企むって失礼な…ま、考えはしたけどね」
そして思いつきませんでしたとも。参謀を驚かせる方法なんて。
心の中で文句を言いながら、小さな箱を手渡す。
蓮二は柔らかく笑って「ありがたく受け取ろう」なんて言った。(くそう、こっちも美人だ)
…受け取ってくれたのはいいんだけど。
「開けないの?」
「…いや」
…何か疑われてる、みたいだ。
「別に変な物は入れてないよ?ね、精市くん」
「そうそう。疑うなんてひどいなぁ、柳」
精市くんと顔を見合わせてそんなことを言えば、一瞬引きつる蓮二の笑顔。
「…後での楽しみにしよう」
「ま、別にいいけど…放課後あたりに開けた方がいいと思うよ?じゃ、また後でね!」
精市くんと蓮二に別れを告げて、走り出す。
"計画開始"を、仲間たちに告げるために。
***
「一つ目は無事に渡し終わったよ。すぐには開けなかった」
「まぁ当然じゃね?柳なら」
「そうじゃな。…二つ目は柳生じゃろ?」
「ええ、私ですね。そろそろ行ってきます」
教室の隅でなにやらコソコソと密談している男子テニス部(+マネージャー)。
傍から見れば、なかなか怪しい集まりだろう。
「三つ目は赤也か」
「そろそろ来るはずなんだけどね、メールしといたから」
今日の計画を思いついたのは精市くん。
それぞれが渡した箱の中には、共通してあるものが入っている。
「蓮二、気付くかなー」
「…家帰ってから開けたりしてな」
「…その間俺らは待ちぼうけってオチだけは勘弁じゃの」
「仁王せんぱーい、丸井せんぱーい!」
「お、赤也じゃん」
「赤也、蓮二に渡してきた?」
「ウイッス!まだ誰のも開けてなさそうっスよ」
…やっぱりか。よし、計画通り。
「次は丸井先輩たちでしたっけ?」
「おう。俺とジャッカル」
行ってくるかぁ、なんて言って立ち上がるブン太を見送って、あたしはある人にメールを送った。
"こちら立海組。ミッションは順調。そちらはどう?"
***
"こちら立海組。ミッションは順調。そちらはどう?"
「クス。だってよ、手塚」
「…こちらも順調だ。終わり次第、予定通りにそちらに向かう」
時を同じくして。
ここ青学でも、密かに"計画"は始まっていた。
「…俺の誕生日は昨日だぞ」
「うん。昨日渡しそびれちゃったからね」
「そーそー!遅れてごめんにゃ!」
不思議そうな顔でリボンのかかった箱を受け取るは、青学のデータマン乾貞治。
「これ、テニス部のみんなからだよん」
「あ、今開けちゃ駄目だよ?ここぞ、ってタイミングで開けてね」
「…どんなタイミングだ?」
「その時になればわかるから、大丈夫」
不二と菊丸の笑顔に若干の不安を覚えつつも、彼は素直に「ありがとう」と礼を言う。
「乾。そろそろいいか」
「手塚」
「あぁ、そういえば立海に行ってくるんだっけ。ごめんね乾、呼び止めて」
「立海?にゃんで?」
「来週末の合同合宿の打ち合わせだ。行くぞ、乾」
そして、
こちらでも計画は動き出した。
***
「真田まで渡し終わったんだ?」
「みたいじゃの。あとは幸村だけか」
「…上手く行きますかねぇ」
休み時間の度に誰かしらが箱を渡しにいく…なんてのを繰り返して、ようやく放課後。
不二くんからはさっき「ターゲットがそちらへ向かったよ」
ってメールをもらった。
「しっかし、幸村くんはなんでまた青学の乾の誕生日まで知ってんだ?」
「前蓮二が言ってたらしいよ。で、今回の件で相談したら
"あんまり連絡も取りあってないみたいだし、この計画でいいんじゃない?"って」
「…十中八九、幸村の気まぐれじゃの」
「…否定はしないぜ」「…うん」「…ッス…」
はあ、とみんなで苦笑をもらす。
「そういや、俺他の人が何て書いたのか知らないッス」
「ああ、カード?」
蓮二へのプレゼントに入れた、共通の"あるもの"。
それは、キーワードが書かれたメッセージカードだ。
「あたしは"精市くん"だよ」
「俺とジャッカルからのもだぜぃ」
「俺は"丸井とジャッカル"じゃき」
「てか、打ち合わせん時に話したよな?」
「……そーでしたっけ?」
…赤也はいつもこうだ。ま、可愛いから許されるんだけど。
「さ、そろそろ精市くんが渡す頃かな」
見届けようか、久しぶりの再会を。
「だな」「ピヨ」「ういーっす」
Dear Prince!
(君たちの生まれた日を、)(さあ、お祝いしよう)