ぽよん。
ぽよん。

柔らかい音を立てて跳ねる水色の球に、彼は一瞬驚いたように目を見開き…
そして、優しい笑みを浮かべた。







   Colorful








「お祭り、行ってきたのか?」

問いかける彼の口元で、同じように膨らむ緑色の球。

「ちょっとだけね。鳥居側の出店を少しだけ見て、帰って来ちゃった」
「ずりー。俺も行きたかったっつーの」
「だってブンちゃんはテニス部の子たちと行くんでしょ?」
「男と行って何が楽しいんだよぃ…」


言葉を交わしながらも、私はひたすら球を玩ぶ。
不思議な模様の広がるそれから、ブンちゃんも目が離せないようだった。



「…なんか、やばい」
「どうしたの、暑さにやられた?」
「いや違くて。浴衣に水ヨーヨー…」


そこで言葉を止め、ブンちゃんはニヤリと笑う。


「すげーエロい」
「馬鹿でしょ」

即答。
が、それでもめげないのが彼なのだ。
夕暮れの光が僅かに残る縁側―因みに私はついさっきまでここで
夕闇に染まりつつある空を見上げていた―に上がり込み、素早く私の後ろに回る。
あっという間に抱き締められる形になり、思わず苦笑してしまった。


「早い」
「天才的だろい?」
「馬鹿でしょ」
「…ほーんと、ちょっとくらい素直になれよなー…」


緩んでるんだけど?
ニヤリ、笑った顔のまま、頬を引っ張られた。


「ま、の考えてることはわかるからいいけどさ」
「…なにそれ」

に染まる頬に気付かれないよう、ブンちゃんから目を逸らして空を見上げる。
いつの間にか、水ヨーヨーは彼の手に渡り跳ねていた。



ぽよん、ぽよん

何処か間の抜けたような音が、山際に微かに残る光と共に藍色の空に吸われていく。
遠くから祭りのざわめきが聞こえてきて、私はゆっくり目を閉じる。




ー」
「なに?」



首筋に触れるのは、彼の唇だろうか。



「すげーいい匂いすんだけど」
「なにそれ」



きっと、いくつも薄紅の華が咲いているのだろう。



「…食っていい?」




意味を問う前に、ぐいと身体が後ろへと引き倒される。
驚いて目を開けば、紺青の夜空に映える紅赤に見下ろされていた。




「…答えは聞かないんでしょ?」
「まーな」





ぺろ、と唇を舐めるその仕草に、思わず身を震わせる。
それを見た彼が、ふっと笑って口づけを強請るまで、あと3秒。










Colorful
     (きみに、色付けられた、世界)