【ついておいでよ この提灯に けして(消して)苦労(暗う)はさせぬから】
その子供を見た時、心が震えた。
彷徨う鬼火をかき集め、小さな身体に導いてやる。
静かに始まった呼吸に安堵して、笑みが零れた。
嗚呼どうか、御前の次なる生に幸多からんことを。
【惚れて通えば千里も一里、逢わで帰れば、また千里】
自分には届かない、天を見上げる。
懲りずに女性を連れ込んでいるであろう姿を思い浮かべ、知らぬうちに唇が弧を描いた。
楽しみを思えば、その距離さえも一瞬。
さあ、今日はどうして遊んでやろうか。
【君は吉野の千本桜、色香よけれど、気が多い】
ふらりふらりと、どこからともなく現れる。
昨日と違う女を連れて、輝くばかりのその笑顔。
ああ、咲き誇る花は美しいけれど、いっそ切り倒してしまいたい。
花の香に誘われた私も、共に倒れてしまえたら。
【君は野に咲くアザミの花よ、見ればやさしや、寄れば刺す】
昨日と違う女性を連れて、彼女に会いに行ってみる。
小さく歪んだその顔に、微かな愉悦。
ああ、花は美しいばかりでないのが良い。
少しばかりのスリルが必要だから。
だから今日も、手は伸ばさない。
【お前死んでも寺へはやらぬ 焼いて粉にして酒で飲む】
死などという概念は鬼にはない。
奴は自嘲気味に呟いて御猪口を呷る。
死?
そんな不確かな存在にお前をくれてやる訳がないだろ。
命が終わるその時には、すべてを僕の中で生かしてやるから。