自信ありげに細められた瞳。
それはまるで、いつかの帝王の姿のようで。
07:キラリ、閃光。
「ひ…日吉、このメニュー終わったけど…」
「じゃああっちのファイルに入っているメニューをやってくれ」
「うん…大丈夫?」
「いいから鳳はそっちをやってろ」
氷帝学園男子テニス部、部室。
扉を開くと、そこには異様な光景が広がっていた。
「…な、何してるの日吉」
扉を開け放ったまま、恐る恐る問いかける。
「見てわかれ」
「さっぱりわからん」
キッパリと言ったら、消しゴムが飛んできた。(危ないでしょうが!)
仕方ないじゃないか。
無駄にだだっ広い部室で、たった一人机に向かってる日吉。(しかも頭抱えてたよ今)
部員たちは部員たちで出来るだけここに近づかないようにしてるし、
何よりちょたのビビり具合がやばい。
なんであたしの後ろでため息吐いてるの!(あんたあたしより大きいでしょ!)
「追試?」
「大会のオーダーだ馬鹿マネージャー」
ゴツン。
避け損ねたテニスボールは見事に頭に当たって、鈍い音を立てた。
***
「なんだ、オーダー?言ってくれたら昨日のうちに選手データ渡したのに」
「…は?」
…何このキョトンとした顔。
「言ってなかったっけ?あたし滝さんから教わって他校とうちの選手データ取ってたんだけど」
「…聞いてない」
「えっ…ねえちょた、あたし前のミーティングで言ったよね?」
あっ、そういえば。
ぽん、と手をたたくちょたに睨みを利かせて(聞いてなかったのはあんたじゃない!!)、
日吉は無言で手を出す。
…寄越せってか、この野郎。
「はいはい、ちょっと待って」
わざわざ日吉の目の前を通って、あたしはトレーニングルームへ向かう。
そしてそこに置かれたロッカーからお目当ての物を取り出して、日吉に渡した。
ぱらぱら、とそれを捲る日吉の表情が、段々と明るくなる。
「どーよ」
「…助かった」
珍しい、日吉の感謝の言葉。
昨日夜中遅くまで掛かって、決められなかったらしいんだけどね。
耳元で囁くちょたの言葉に、思わず笑ってしまった。
「ほら、部長。早いとこ決めちゃいなよ。こっちはあたしたちでやっとくからさ」
「…ああ」
返事をするや否や、彼は猛スピードで自分の書いたオーダーに何かを書き加え始め。
それを見たあたしたちは、顔を見合わせて静かに部室を出た。
***
すっきりとした表情で日吉が校舎から出てきたのは、
練習が粗方終わる頃だった。
時計を見て、少し残念そうな顔をする日吉。
(…練習、したかったんだろうな)
そう思いつつ、機嫌のよさそうな彼のもとへ。
「どうだった?データは」
「おかげでオーダーが組めた。ありがとう」
素直に言われた感謝の言葉は、なんだかくすぐったい。
「そ、役に立ったみたいで何より。
それでどう?勝てそう?」
「…勝てそう、じゃない。勝つんだよ」
自信ありげに言われた言葉。
すっと伸びた背筋。
何より、真剣な表情で部員たちの練習風景を見つめる姿が、
まるで、いつかの帝王のようで。
(ああ、どうしよう)
この人についていきたいと、強く思ってしまいました。
キラリ、閃光。
(目をそらしたのは、夕日が眩しかったから)(顔が赤いのだって、夕日のせい!)