目の前で睨み合う、ヒロ兄と仁王さん。
というか、ヒロ兄が一方的に睨んでいるだけなんだけれども。(仁王さんは知らん顔してるし、)

…なんだか、嵐の予感です。




   I love you baby! 2




ことの始まりは数週間前に遡る。

、比呂士が大切な資料忘れていったらしいから、届けてあげて」

文化祭の代休で朝からごろごろとしていたあたしに、母さんが声をかける。
…珍しい、ヒロ兄が忘れ物するだなんて。
なんでも、委員会で使う大切な資料らしい。(余計に珍しい、明日は雪かな)

かくして、あたしは立海に乗り込んでいった訳だけれども。





「…馬鹿じゃないの、ヒロ兄」

持って来てほしい、とわざわざ電話してお願いした割に、
迎えにも来ないとはどういうことだ。
もちろんあたしはヒロ兄の教室もわからないので、ただ立ち尽くしているだけ。
立海に知り合いなんていないし、どうしたものだろうか。


「ん。お前さん、柳生の妹じゃろ」

そこで、声を掛けてくれたのが「…すいません、どなたですか」
…知ってるよ、あり得ないくらいに失礼だって!(でも怖いじゃない!!)
だけど相手は、気を悪くした様子もなく笑う。

「柳生とダブルス組んでる、仁王」
「…仁王、さん」

あれ、ヒロ兄が「気をつけろ」とか言ってた人だったかな。
そんなことはこの際どうでもいい、ヒロ兄にこれを届けられれば。
「あ、あの!うちの馬鹿兄貴がいつもお世話になってます!」
それを言いたいんじゃないんだけど!どうしたのあたし!

いやいや、なんて表情を緩めた仁王さんが、「そんで、柳生妹がどうしてこんなとこにおるんかのぅ」と問う。

「ヒロ兄…いや、馬鹿兄貴から、委員会で使う資料を忘れたって連絡があったので…」
「届けに来たんか。偉い偉い」


なんと、頭を撫でられた。(一つ年下なだけなのに!なにこれ、かっこいい!)


「柳生が来なくて困ってたんじゃろ。安心せえ、届けちゃる」
「えっ!本当ですか!!」
ああ、と再び笑う仁王さん。
…一体どうして、ヒロ兄は仁王さんに気をつけろなんて言ったんだか。
困ってるのを見かけて声掛けてくれるなんて、いい人じゃない。


「そのかわり、今度付き合ってほしい所があるぜよ」
「付き合ってほしい所…ですか?」
「姉貴の誕生日プレゼント買うのに付き合ってほしいんじゃ」
「お姉さんがいらっしゃるんですか?いいですよ、あたしでよければ!」



かくして、仁王さんとのお出かけが決定した訳です。


その日の夜、突然仁王さんからメールが来て。(ヒロ兄の携帯から赤外線送信したらしい…どういうこと)
お出かけは、今度のテニス部のオフの時に決まった。







そして、今朝のこと。

、久しぶりに買い物に行きませんか?練習が久しぶりに休みなのですが」
「んー?ごめん、あたしお出かけの予定あるんだ」
「…お友達とですか?」
「えっ、」

仁王さんは…友達、じゃないだろう。うん。

一瞬の間を、ヒロ兄は残念な感じに勘違いしたらしい。



「かかか、彼氏ですか!?」
「ちょ、ヒロ兄、」
「彼氏なんて、彼氏なんて…」



ピンポーン。




「あ、来たかな」
あたしの言葉に、ヒロ兄がいろんなところにぶつかりながら玄関に駆けて行く。

…仁王さんなら、なんか上手くかわしてくれるだろう。
なんてったって、このヒロ兄とダブルス組んでるくらいだし。



「仁王君、これはどういうことですか!」
「どういうこと、ねえ。わかるじゃろ、なあ
「そうそう。この間ヒロ兄が、」
「デートぜよ」
「資料忘れてった時に…えっ?」


一瞬、思考回路が止まる。
だけど、仁王さんがぺろりと舌を出したのを見て。


「そう、おデート」
「許しませんよおおおおおお!」




あーだこーだ、と説教を始めようとするヒロ兄を置いて。
あたしたちは、笑いながら家を出たのでした。





I Love You Baby!(気をつけなさいとあれだけ言ったのに…!!)





*おまけ

「…何見とるんじゃ?」
「ヒロ兄におみやげを買っていこうかと。何がいいと思いますか?」
「(…シスコン兄にブラコン妹…)」