時計の針が、真夜中を指した。

「私、そろそろ寝るね」

そう言うと、彼は何も言わず私のベッドに入って来る。

「…ここで寝るの?」

笑顔で頷かれた。

「仕方ないなぁ…今日だけだよ?


…ブン太」





   02:丸井ブン太と私





パチリ、電気を消すと
「あ」
一足先にベッドへとダイブしていたブン太が声を上げた。
「どうしたの?」
「明日のメシ当番。どっちだっけ」
「明日…?あ、私だ」


何食べたい?と聞いたら、「うまいもん」なんて答え。


「えー、じゃあブン太が作ってよ。ブン太の料理の方が美味しいもの」
「俺はお前の料理が食いたいの」

…う。
こう言われてしまったら、私が作らないわけにはいかないじゃないか。



「腹減ったなー」
「寝れば朝になるよ」
「んー…確かにそうだけどよー…寝るまでが辛くね?
アップルパイ食いたいぜ…」
「あぁ、イチゴのタルトとかもいいなぁ」
「トリュフとか?」

…ブン太の発言に、違和感。

「…狙ってる?」
「おう」

「余計にお腹空かない?」
「まーまー。んじゃ、からな」


「フィナンシェ」
「エクレア」
「ア、アイスクリーム!!」
「ムース」

さすがは大食い大魔神。
次から次へと名前が出てくる。


「ス…ス…スフレ、」







…あれ?


「…ブン太?」
寝っ転がったまま隣の様子を伺い、私は小さく笑う。
(…寝てるじゃない)
つい今しがたまで、喋っていたというのに。

すぅ、と寝息を立てる彼にひとつキスを落として、
私も幸せな気持ちで目を閉じた。










(おやすみなさい、)(いい夢を)