もっと美しく、綺麗に




そう願って私は




真っ直ぐ




本当に真っ直ぐに




その光り輝く珠を見つめていたのです




   02:しゃぼん玉、とんだ




「何やってんだ?」
「しゃぼん玉」


ゆっくりと、慎重に息を吹く。
するとそれはみるみるうちに大きくなり、いつの間にかストローの先を離れて空中へと飛び出す。


「何で」
「やりたかったから」


つくづく私は可愛くない。
隣にいる彼も苦笑しながら同じことを思ったらしかった。


「可愛くねーの」
「アーサーに可愛いって言われたらきっと私ここから飛び降りるよ」


ふわふわと、
解き放たれたように飛んでいくその珠。
様々な色を見せつつ空へと吸い込まれていく。


「病室にいなくていいのか?」
「退屈だもの。少しくらいお医者さんも許してくれるでしょ」



瞬間、頭上から何かが落とされた。


「え、ちょ」
「か、風邪引かれたら困るとかそういうんじゃないぞ!?その、暑いから脱いだんだからな!」


どんな言い訳だ、と思いつつも、頬はやはり緩んでしまう。


「…ありがと」

別にお前の為なんかじゃねーぞ!!と言い張るアーサーの頬は
(私の錯覚でなければ)紅く色づいていた。




「…ねぇアーサー」
「ん?」



ぱちん、



突然
目で追っていたしゃぼん玉が弾ける。


「アーサーはさ、」
死ぬの、怖くない?
「…?どうしたんだよ」
「―――…」


言えない。こんなこと。
私の心の中の澱んだ感情なんて、彼には見せられない。
だから私は何も言わず、再び美しい色を膨らませる。


「…綺麗」

隣のアーサーも、不思議そうな表情を見せつつ「…あぁ」
と小さく呟く。




今じゃなくてもいい。
膨らみ続けていた私の想い。
蝕まれていく私の命。
それらが弾けて…儚く消えてしまう瞬間。
彼が全てを知る瞬間が、出来るだけ遠い未来になるように。
その時まで、私は―――


出来るだけ美しく、綺麗に




貴方の瞳に映っていようと思うのです






様々な色を君の瞳に焼き付けたいから









しゃぼん玉、とんだ