気付いているにきまってるでしょ?
ずっと君だけを見てきたんだから。




   Play a Trick!




「…あれ?」

窓の外を見て、首をかしげる。
告白スポットとして有名な校舎裏の木の下に、見知った姿を見つけたからだ。

(仁王じゃない)

あたしの彼氏(一応)である仁王雅治。
その向かいには女の子の姿…ああ、変なタイミングで見かけちゃった。



声が聞こえないから何を言っているかはわからないけれど、
あの場所ですることといったら決まっている。



「…えらいなぁ、仁王」
「おや、さんではないですか」

後ろから声をかけられて振り向けば、そこにいたのは彼のパートナー。
"紳士"で有名な、柳生比呂士くん…の、はずなんだけれども。

(…なーんか、変なの)

仁王君を探しに来たんですが、と言って目の下をかく柳生くん。
その仕草に、少しの違和感を覚える。



「柳生くん、大丈夫?顔色悪くない?」
「?いえ、体調は悪くありませんが…」

その返答に、疑問は確信へと変わった。




「珍しいね、仁王が自分であそこに行くなんて」
「どういうことですか?」
「いやほら、柳生くんに頼んでそうじゃない?"面倒じゃ"とか言って」
「…ああ、私が自分で行くようにと彼に言いましたので」
「なるほどね」

相槌を打って、窓の外に視線を戻す。
ちょうど、相手の女の子は俯いて走っていくところだった。



…なんだか可哀想になってきたな、柳生くんが。


「…同情するよ、柳生くん…」
「いつものことです」

うん、それは知ってる。

はあ、とため息を吐くと、目の前の彼は「いいんですか?」と呟く。
「なにが?」
「仁王君のことです。さんは仁王君と付き合っていらっしゃるでしょう?」
「まあ、そうだけど…でもね、別にいいんだ」


どういうことですか、と首をかしげるのを見つつ、あたしは笑みを浮かべる。





「だって、わざわざ柳生くんになってまで逃げだしてくれるみたいだからね?うちの彼は」







沈黙。の後、深いため息が聞こえた。
「…いつから気付いとったんじゃ」
「顔色が白いから、最初は本当に具合悪いのかなあって思ったんだけどね。柳生くんなら、
"ありがとうございます、大丈夫ですよ"くらい言うし。そこがまず一つ」

柳生くんの顔のままで、仁王の声が相槌を打つ。

「それと…癖が、仁王だった」

何を言おうか、迷った時。
仁王はいつも、左目の下をかくんだ。


「…お前さんには、なんでもお見通しじゃな」
そう言って彼は眼鏡を外し、小さく笑った。
「俺も気付いとらんかった。自分の癖なんぞ」
柳生にも気付かれとらんじゃろうな、とどこか嬉しそうに言うから、あたしも笑顔で言ってやった。


「そりゃそうだよ、仁王がそんなことするの、あたしの前だけだもの」


「当たり前じゃ」
するりとカツラを外すと、現れる銀色。
「お前さんの前では、ペテンなんぞ役に立たんからの」

ご褒美、とばかりに降ってきた口づけに、あたしは目を閉じて酔いしれた。








もちろん、仁王は変装を解いて帰ってきた柳生くんにしっかり怒られてしまったけれど…
あたしの緩んだ頬に気付いた柳生くんは、「仕方ないですね」なんて苦笑いで許してくれた。







 Don't Play a Trick!
(ペテンもほどほどにね!)