「ー…本当に行くの?」
     「うん、絶対行く。どーせ一時間無駄話なら聞く意味無いし」
     「ってば、仕方ないなぁ…じゃぁ、うまく言っとくね」
     「うん!さっすが沙樹♪頼みましたよー」

     今日は大っ嫌いな美術の日。
     あまりの嫌さに顔を見るだけで吐き気がする(by)ため、「やむなく」サボることを決意したのである。
     (先生があんなのじゃなきゃね、あたしだって好き好んでサボったりしないよ)
     心の中で苦々しくぼやき、は走り出す。
     「「行ってらっしゃーい」」
     友達の沙樹、文美に見送られて、少女は学校を出た。
     (注:学校はサボっちゃいけません。)

     学校を出て約3分。
     目的地である図書館が見えてくる。
     キーンコーンカーンコーン・・・
     少し遠くから始業を知らせるチャイムの音が響き、
     はそれにせかされるように図書館へと飛び込んだ。

     何か新しい本はないかと探し始める彼女の目にその本が留まったのは、
     時間が大分経ってからだった。

     辺りを見回したの目に入る、見覚えの無い本。
     黒い無地の背表紙で、特別目立つわけでもなかったのに。
     少女はその本を手に取った。

     そう…今考えると、それが全ての始まりだったのだ。

     開こうとしてふと時計を見ると、時間は既に授業終了5分前。
     「・・・やばっ」
     は一人でつぶやくと、図書館を後にした。

     「いいなー。うちら、ただ長い話聞いてるだけだったんだよ!?」
     「の読みどおりね…あー、退屈だった」
     放課後、友人たちに適当な答えを返しながら、
     の頭の中はさっきの本のことで一杯だった。
     「ねー。今から遊びに行かない?」
     「今日?ごめん、今日はちょっと無理なんだ。今日は手伝いしなきゃいけなくて」
     「神社の娘も大変だねー」
     「じゃぁ、また後で行こーね」
     「うん。じゃー、バイバイ!」

     手を振る友人たちに手を振り返し、は家路についた。       

     「ただいまー」
     「おかえり!」
     
     出迎えてくれたのはイサナ。
     彼は山の神社に封印されていたところをに見つかって封印を解いてもらい、
     そのまま家に住み着いた精霊である。
     「レイとリュウは?」
     「今は神主様のお手伝いに行ってるよ」
     「ふーん。じゃあイサナはサボりね」
     「そうそう…って、違うよ!オレはお留守番!!」
     「あ、留守番って書いてサボりって読む?」
     「違うって」
     「いや、イサナは間違いなくサボりだよ」
     そう苦笑しながら部屋に入ってきたのは、同じく精霊のレイ、それにリュウ。
     「おかえり、
     「ただいまリュウ、それにレイ。二人ともお疲れ様!」
     「いや、そんな大したことはやってないから」
     
     笑いながら他愛もない話をするこの時間が、はとても好きだった。
     
     「あ、そろそろお母さんの手伝いに行ってくるね」
     「オレも行く」
     そう言ってついてきたのはリュウだった。
     「今日はリュウも手伝ってくれるの?」
     「璃亜様とじゃ危なっかしいからな」
     「もー、またそういうこと言う!!」
     璃亜、というのは彼女の母親である。
     笑いながら言う彼に、は少し膨れて見せた。


     夕食を終え、部屋に戻ってきたプラス精霊3人。
     再び軽い口論を始める精霊たちに苦笑しながら、彼女の脳裏にさっきのことが過ぎる。
     「・・・そういえば、あの本」
     ふと思い出し、少女は本を手に取った。





     中には、たった3行。

 
     『世界を支配せし者の力が満ちるときがきた
     選ばれし者よ、世界を救え
     さもなくば世界は崩壊し、全てが消え失せるであろう』
     急に、風が吹いて。
     リュウたちの声がどんどん聞こえなくなる。

     それと同時に、の意識は遠のいていった――