次にが目覚めたのは、見たこともない街の中だった。
     目の前には「FOOD」の看板のかかった店。
     「・・・え?」


     『この地上に生ける神の子らよ 祈り信じよ されば救われん・・・』


     『私は太陽神の代理人にして 汝らが父・・・』


     このセリフは聞いたことがある
     どこでだっけ・・・
     「ラジオで宗教放送?」
     「神の代理人・・・って、なんだこりゃ?」
     「いや、俺にとっちゃあんたらの方が『なんだこりゃ』なんだが・・・
     あんたら大道芸人かなんかかい?」


     吹き出す音がして、ゆっくりと振り向くと。
     予想通り、金髪を三つ編みにした少年、それに大きな鎧。
     「あのなおっちゃん、オレたちのどこが大道芸人に見えるってんだよ!」
     「いや、どう見てもそうとしか・・・」

     嘘、だ。
     何であたしはこんな所にいるんだろう。
     来れるはずのない、此処に。
     金髪の少年。鎧の姿をした、彼の一つ年下の弟。
     会えるはずのない2人。見ることが出来ないはずの風景。
     (何、が…起こったの?)

     「ここいらじゃ見ない顔だな。旅行?」
     「うん ちょっと探し物をね…ところでこの放送、何?」
     この会話…ということは、此処はリオール。
     つまり、このストーリー…「鋼の錬金術師」は、始まったばっかりということか。
     (頭の中がパンクしそう…)
     「コーネロ様を知らんのかい?」
     「…誰?」
     「コーネロ様さ、太陽神レトの代理人!!」
     人々が口々にそのコーネロを褒めるのを聞きながら、はこれからどうしよう…と考え込む、が。

     (…考える意味も無い…どうしたって解らないんだもの…)

     「…って、聞いてねェなボウズ」
     「うん。宗教興味ないし」
     そう言って少年が立ち上がるのと同時に、
     はそのまま道路にへたり込む。
     (も、ダメ…頭がグルグルする…)
     「どうした嬢ちゃん?大丈夫かい?」
     店のおじさんの優しい声にも声が出ず、ただ頷く。
     すると、

     「大丈夫なはず無い。顔が真っ青だ」

     誰かがの目の前にしゃがみ込む。
     …これは夢?それとも幻?

     虚ろに考えるその目に入ったのは、とても綺麗な黄金色の髪。
     「おっちゃん、どこかベッドある?こいつ寝かせた方がいいみたいだ」
     「君、大丈夫?本当に顔真っ青だよ」
     そう言って同じようにしゃがみ込んだ彼は、鎧の冷たい体とは裏腹に…
     優しそうな目に心配そうな色を秘めている。
     「ど、して…あたしが、ここに…」
     最後まで言い切らないうちに、目の前がブラック・アウトした。   


     ***


     「…っ」
     「あ。目、覚めた?」 
     優しい声で話しかけてくれたのは、鎧の少年…アルフォンス・エルリックだった。
     「あなた…?」
     「あ、ボクはアルフォンス。さっき君、倒れたんだけど…覚えてる?」
     「うん…あ、エ…金髪の子は?」
     「あぁ、あれはボクの兄さんでエドワードっていうんだけど、今店のおじさんと話してるんだ。
     …君の名前は?」
     「えーっと…」
     (ヤバイな…どうしよ)
     正直に名乗ろうか、偽名を使おうか…
     「
     結局は偽名にしてしまった。
     (秘密にするのは苦しいけど、今は説明できないしね)
     と、その時。
     「お、起きた。おっちゃーん、起きたぞー」
     大声を出して店主を呼ぶその声は。
     「エドワード・エルリック・・・」
     「アンタ、オレの名前知ってんの?」
     「あ、ボクがさっき教えちゃった」
     てへ☆と効果音がつきそうな感じで言うアルに、は思わず吹き出した。
     「…んでー、お前の名前は?」
     「…」
     「…オイ?」
     「!!あ…あたしはでいいよ」

     驚いた。ただ、それだけ。

     彼の綺麗な黄金色の髪。同じように黄金色の瞳。
     それが、太陽のようにまぶしくて…言葉を発することが出来なかったんだ。


     「アル、教会行くぞ」
     「あ、さっきのロゼさんの所?」
     どうやらちゃんとストーリーは進んでいるみたいで、
     マンガの通りに教会へ向かうことに。
     「は…どうするの?」
     アルの優しい言葉に、彼女はこっそりとガッツポーズ。
     「あたしは…
     あたしは、二人の迷惑じゃなければ一緒に行きたい」
     そう答えてみれば、エドはそっぽを向いて。

     「どっちでもいいけど行くんなら早くしろよ」

     どうせこんな展開になってるんだったら、楽しまなきゃソンでしょ!


     エドとアルには部屋の外でちょっと待っててもらい、は袖を捲り上げる。
     そこに光るのは、がいつも付けているブレスレット。
     それをゆっくりとなぞると、途端にリュウたち3人が現れる。


     「!何が起こったんだ!?」
     「あたしに聞かないでよ。あたしも何がなんだかわかんないんだから」
     そりゃぁそうだと同時にうなづく3人を見て、は考え込む。
     「とりあえず…どうする?教会行くって決めちゃったけど」
     するとレイは笑って頷き。
     「別にいいと思うけどな。何があったにせよ、あの2人についてけばどうにかなる
     …気がする」
     「気がする、って…!!…じゃぁ、とりあえずあの2人についてく。それでいい?」
     「「「賛成!!」」」
     精霊3人のそろった声に安心し、は小さく微笑む。

     「あ、でも俺らのことと違う世界から来たってことは内緒にしたほうがいいと思うぞ」
     はっきり言われ、彼女は少し困ったように答える。
     「…やっぱり、そう思う?」
     「時期見て話したほうがいいと思うよ、オレも」
     「おー、珍しく意見合ったなイサナ。不本意だが」
     「そんなのオレだって!!」
     言い争いを始めるレイとイサナに、は苦笑しリュウと顔を見合わせた。


     「ごめん2人とも、待たせて」
     「遅ぇよ」
     「もう、兄さんってば…じゃあ、行こうか」
     (それでもちゃんと待っててくれたんだ)
     ふとそんな事を思うと、少女は人知れず笑みを浮かべた。


     「あら、確かさっきの…レト教に興味がおありで?」
     「いや、あいにくと無宗教でね」
     「てか、エドワードと宗教って結びつかないと思うけど」
     おお神よ!なんてお祈りしてたらどうよ?と小さな声でアルに言うと、
     彼も想像したみたいだった。
     「…ありえないかも」
     「いけませんよそんな!神を信じうやまうことで日々感謝と希望に生きる…
     なんとすばらしいことでしょう!」
     (ま、あたしには関係ないなー)
     しかし話に関係ないと思っていたの耳に、こんな言葉が飛び込んで来る。
     
     「信じればきっと、あなたがたの身長も伸びます!」
     

     "あなたがた"…?
     見渡して確認するも、"あなたがた"に当てはまるのはやはり…
     「…あたしも!?」
     「んだとコラ」
     確かにの身長は、エドよりも少し小さい位で。
     ただタイミングを逃してエドのようには怒れなかっただけ、である。


     「――水35l、炭素20kg、アンモニア4l、石灰1.5kg、リン800g、
     塩分250g、硝石100g、イオウ80g、フッ素7.5g、鉄5g、ケイ素3g、
     その他少量の15の元素…」


     「…は?」
     案の定ロゼはきょとんとしている。
     「知ってるよ。大人1人分として計算した場合の人体の構成成分…かな」
     エドワードはその言葉に頷き、更に続けた。
     「ちなみにこの成分材料な、市場に行けば子供の小遣いでも全部買えちまうぞ。
     人間てのはお安くできてんのな」
     「人は物じゃありません!創造主へのぼうとくです!天罰が下りますよ!!」

     「――錬金術師ってのは科学者だからな。創造主とか神様とかあいまいなものは
     信じちゃいないのさ。…神様を信じないオレたち科学者がある意味神に近いところにいるってのは皮肉なもんだ」
     「高慢ですね・・・ご自分が神と同列とでも?」
     「そういや、どこかの神話にあったっけな…


       ”太陽(カミサマ)に近づきすぎた英雄はロウで固めた翼をもがれ地に落とされる”


     …ってな」