それを聞いてもふと思い出す。
     「あぁ、そういえばそんな歌があったっけ…」

          昔ギリシャのイカロスは ロウで固めた鳥の羽 両手に持って 飛び立った
          雲より高く まだ遠く 勇気一つを友にして
          赤く燃え立つ太陽に ロウで固めた鳥の羽 見る見る溶けて 舞い散った
          翼奪われ イカロスは 落ちて命を失った

     「ロゼさん…あなたは死んだ人を生き返らせようなんて…思わないで下さい…」
     やっぱりロゼは意味が分からず、きょとんとしたままだった。


     ***


     「教主様!」「教主様ーっ」「奇跡の業を!!」


     花の舞う中、人々はレト神の代理人――に言わせるとインチキ野郎――コーネロ教主に向かって叫び続ける。
     よく見えないせいで、エドはトランクの上、はアルに肩車。(ひゃっほう、夢の肩車!!)
     どうやらコーネロは、人々に応えて白い花を変えて見せたよう。
     あのインチキ野郎…
     はさっきからキレ続けていた。


     「…どう思う?」
     「どーもこーも、あの反応は錬成反応でしょ」
     「でも法則無視されてるんでしょ?」
     「そーなんだよなぁ…」
     「ね、エドワードもアルフォンスも。教主の指輪、あれって…」
     「エドワード、ってのやめてくれねェか?エドでいいからさ」
     「ボクもアルでいいよ」
     「…うん。でさ、」

     「みなさん、来てらしたんですね!」

     ロゼの声が響いて、は顔をしかめる。
     今話したら、きっと後で面倒なことをしなくて済む。そう思ったからこそ話そうとしたのに。
     (面倒なのは嫌だなぁ…ま、仕方ないか)
     「どうです?まさに奇跡の力でしょう?コーネロ様は太陽神の御子です!」
     それに対してエドはさらっと言ってのけた。
     「いや、ありゃーどう見ても錬金術だよ。コーネロってのはペテン野郎だ」
     「でも法則無視してんだよねぇ」
     「う――ん、それだよな」
     「法則?」
     「エドよりアルが説明した方が分かりやすいよ、きっと」
     「ボク?えーとね、質量が1の物からは同じく1の物しか、水の性質の物からは
     同じく水属性の物しか練成できないってこと」

     「つまり錬金術の基本は”等価交換”!!
     何かを得ようとするならそれと同等の代価が必要ってことだ」
     (おー、かっこいー)
     は心の中でそう叫びつつ、(今度こそ)エドに耳打ちをする。
     「ねーエド、教主の指輪。あれ、怪しくない?」
     「あぁ、ひょっとすると…ビンゴだぜ!」
     (だからさっきから言ってたのに…)
     心の中でため息をつくが、本当はおもしろがっていたりして。


     「おねぇさん、ボクこの宗教に興味持っちゃったなぁ!
     ぜひ教主様とお話したいんだけど、案内してくれるぅ?」
     「ずるいエド、あたしもー!!」

     態度がガラッと変わったエド(と)に気づかず、ロゼは嬉しそうに

     「まあ!やっと信じてくれたのですね!」

     そう言っただけだった。

     ***


     「さあどうぞこちらへ」
     数刻後。
     とエド、アルは、教会の中に案内された。
     「…?、遠くないか?」
     「えー?き、気のせい気のせい!!」
     は次に起きることを知っているため、教団の人たちから出来るだけ離れて歩く。そりゃあもう、不自然なほどに。

     (面倒なことに巻き込まれるの嫌だし。それに、あたしが来たことでストーリーが変わってる…
     もしかしたら、この後も変わってるかもしれない。何があっても動けるようにしとかなきゃ)
     心の中では至極まともなことを考えている彼女だが、その行動はどう見てもおかしい。
     すると、今まで黙っていたイサナがブレスレットの中から声を上げた。
     (でも、基本的には変わってないみたいじゃん。あんまり心配しなくてもいいんじゃないの?)
     続いて、レイも言う。
     (大丈夫だって。それより何より行動に気をつけろ。不自然だろいくらなんでも!)
     そして、リュウが締めくくる。
     (ま、何があってもだけは助けるからさ。安心して)
     (あたしだけって…出来れば2人も助けたいな…)


     「ええ、すぐ終わらせてしまいましょう…このように!」

     突然1人がそう言い、アルの頭に向かって銃を放つ。
     途端に倒れるアルの身体。
     エドはすぐに取り押さえられたが、は違った。
     元のドアに向かって走ると、手を合わせてドアに当てる。


     バチバチッ、と錬成反応の眩しい光。

     次の瞬間には、の手に刀が握られていた。
     (…素晴らしきかな錬金術の世界!!)
     ウキウキしつつ刀を構えると、ロゼが叫んだ。
     「師兄!何をなさるのですか!!」
     「ロゼ、この者たちは教主様を陥れようとする異教徒だ。悪なのだよ」
     「そんな!だからと言ってこんなことを教主様がお許しになるはず…」
     「教主様がお許しになられたのだ!教主様の御言葉は我らが神のお言葉…
      これは神の意思だ!!」


     話に集中しすぎていた師兄は、後ろにアルがいるのにも気づかず、エドに銃を向ける。
     (ふっ、バカなやつー)
     
     「へー、ひどい神もいたもんだ」

     「そーそー。それに、周りにも目を配ってないと危ないですよ?」

     「んな…」
     
     振り向いた師兄の目に映ったのは、中身のない空っぽな鎧。
     驚くのも当然で、あっけに取られている間にアルのパンチが炸裂!!
     それと同時にエドが自分を抑えていた男を投げ、
     は自分に背を向けた1人の男に峰打ちをくらわせて。
     逃げようとした残りの男に向かって、エドがアルの頭を投げる。
     「ストライク!」
     「グッジョブエド!!」
     ぐっ、とこぶしを握って嬉しそうなエドに対し、アルはもちろん怒って。
     「ボクの頭!」
     
     「どどどどうなって…」
     が無反応なのに対し、ロゼは当たり前の反応を示す。
     「どうもこうも」
     「こういうことで」
     それに冷静に応えるエドとアル。
     「なっ…中身が無い…空っぽ…!?」

     「これはね、人として侵してはならない神の聖域とやらに踏み込んだ罰とかいうやつさ…
     ボクも、兄さんもね」

     「エドワード…も?」
     「ま、その話は置いといて。神様の正体見たり、だな」


     それでもロゼは認めない。認めようとしない。

     まるで、自分が今見ているもの全てを否定しようとしているように。

     「そんな!何かのまちがいよ!!」
     「…変に思ったことは無かったの?
     騙されてるんじゃないか…そう思ったことは、本当に無かった?」
     の言葉にもロゼは耳を貸さず、首を振り続ける。
     「ロゼ、真実を見る勇気はあるかい?」
     エドの言葉に、ロゼは迷った末ようやく頷いた。


     ***


     「アルの中に…ロゼさん、入らないかなぁ?」
     「入りそうだな…じゃぁロゼ、この中に」
     数分間の奮闘の末、ロゼを中に入れ、ようやく一休み。
     「…なぁ
     …と、急にエドがを呼ぶ。
     「何?」
     「お前…

     何で練成陣無しの練成が出来るんだ?」

     (早速来た、か)
     はさっきのリュウたちとの会話を思い出し、少し考えた後…
     「少しくらい秘密があったっていいじゃない♪」
     「少しかよ!!」
     「そ、少し。何せ、あたしはエドのこともアルのこともあんまり知らないしね…
     …名前くらいしか」
     そりゃあマンガでは知っておりますが!!
     その一言は飲み込んで、ね?とばかりにエドに同意を求めると、
     彼も仕方無さそうに頷く。

     (さぁ…後はいつ教えるかだな…)
     もうバレちゃいそうだけど。そう思いつつ、少女は先を急いだ。