「ロゼの言ってた教主の部屋ってのはこれか?」
     「多分ね…さ、行こうではないですか!」
     「…やる気満々だね…」

     ギィ…

     それに応えるようにドアが開き、

     「へっ、『いらっしゃい』だとさ」

     3人はゆっくりと足を踏み入れる。
     直後に背後でドアの閉まる音がして、コーネロが姿を現した。



     「神聖なる我が教会へようこそ…教義を受けに来たのかね?ん?」
     「ああ ぜひとも教えてほしいもんだ。せこい錬金術で信者をだます方法とかね!」
     「さて何のことやら。私の”奇跡の業”を錬金術と一緒にされては困るね。
     一度見てもらえればわかるが…」
     「見せてもらったよ。で、どうにも腑に落ちないのが法則を無視した練成が
     どういう訳か成されちゃってるって事なんだよね」
     「だから錬金術ではないと…」

     「そこで思ったんだけど、


     ”賢者の石”使ってんだろ?」
     

     教主の指がぴくりと動く。

     「そしてその指輪がそうですね?」
     がそうたたみかけると、教主の指はさらに動いて。
     「ご名答!伝説の中だけの代物とさえ呼ばれる幻の術法増幅器…」

     
     (あーあ、長い演説始まっちゃったー…)
     (お前はもうちょっと辛抱強くなれよ)
     イサナとレイの言い合いが聞こえ、はひそかに苦笑する。
     (2人とも、いっつもこうなんだから)
     (しょうがねぇな…オレが止めとくから)
     リュウも同じく困ったように言い。
     (じゃあお願いね、リュウ)

     さて…そろそろ始まる、か…

     微かな空気の揺らぎに、小さく首を傾げる。
     (この次ってハゲをぶっ飛ばすだけじゃないっけ…?)

     話のシナリオを頭の中で思い浮かべ、は小さく「…やば」と呟いた。

     瞬間、溢れる強烈な怨念。
     その全ては教主に向いている。(本人は鈍感すぎて気付いていないが。)
     思いがけない衝撃に、彼女は思わず悲鳴を上げる。
     「痛っ!!」
     「大丈夫?
     しゃがみ込むに、アルがそっと尋ねる。
     「大丈夫…」
     (畜生…やってくれるじゃないの…最初っから殺る気満々か…)
     顔を上げると、ロゼは既にアルの中から出て教主に詰め寄っていた。


     「あの人を甦らせてはくれないのですか!?」



     苦しげなロゼの声と、重なる教主の声。



     「確かに神の代理人と言うのは嘘だ…
     だがな、この石があれば今まで数多の錬金術師が挑み失敗してきた生体の練成も…
     おまえの恋人を甦らせることも可能かもしれんぞ!!」






     それは…魔法のような言葉。





     「ロゼ 聞いちゃダメだ!」



                                        「ロゼ いい子だからこちらにおいで」



     「行ったら戻れなくなるぞ!」



                                        「さぁどうした?おまえは教団側(こちらがわ)の人間だ」



     「ロゼ!」



     「ロゼさん!聞いて!!絶対無理なんだよ、だって…」
     言いかけて、は口を閉じる。
     自分たちの声は、彼女には届かない。彼女が自分で気付くしかないのだから。


     「おまえの願いをかなえられるのは私だけだ、そうだろう?」
     そして教主は、最後の言葉を口にした。



     最後にして、最強のその言葉。
     それを聞いたら、決して戻ってくることは出来ない。



     「最愛の恋人を思い出せ、さあ!!」